第36話 リリナの悩みというなの幸せ


(……や、や……やってしまったぁ……!!)


リリナは心の中で頭を抱えながら自分が犯してしまった失態を思い出した。

マリーと魔法の勉強について白熱してしまい、レクスのことを放っておいてしまったのだ。


マリーは屋敷に戻り、今はレクスの隣でギルドに戻るために隣で歩いている。


(うぅ……レクスくんの力になりたかったのにぃ、どうしてこうも上手くいかないの!?というか私、レクスくんの前だと上手くいかないことばっかり!!なんか、こう……もう!自分が腹が立つぅううう!!!)


ドンドンッ!と癇癪を起こす子供のように地団駄を踏む。

尚、それは心の中のリリナであり、今レクスの隣で歩いている彼女は平然としている。なんとも器用な芸当を披露している中、レクスに話しかけられる。


「あのリリナさん?大丈夫ですか?」


「…………はい?特に何も問題ありませんが?」


「す、すみません……」


圧を感じさせられる返答にレクスは押し黙ってしまった。

そしてそんなレクスを見てリリナは……再び地団駄を踏む。


「り、リリナさん?」


「……失礼しました。なんでもないです」


だが、今度はレクスにも見られたらしい。少し羞恥心を感じながらも、彼女は頭を抱えた。


(バカバカバカバカ!!!なんで私は!!レクスくんに心配されたのに!!そんな返答するんの!!!嬉しいけど!!すんんんごく嬉しいけど!!)


リリナは悶絶していた。あまりにも自分がレクスに対して冷たい対応していたことを。

そして忘れていたのだ。今、リリナが彼とどういう状況になっているかということを。


「そういえばリリナさんって魔法について詳しいんですね。意外でした」


「……昔、少しだけですが冒険者をしてたんです。その名残で魔法だけは得意なんです」


「へぇ、羨ましいです。俺は魔法は殆ど使えないので」


「……レクスさんも強化系の魔法使えるではありませんか」


「俺は、独自で覚えたもので拙いです。多分リリナさんに比べたら全然で……だから羨ましいです」


「……そ、そうなんですね」


好きな男性に褒められると嬉しくなる。前までは馬鹿馬鹿しいと思っていたことなのに、いざそれを経験するとどこかムズムズするような胸が躍るような気持ちになる。

リリナは顔を赤くさせながら口元が緩んだ。


「……レクスさん。あの……今日はできませんでしたが……今度こそ魔法のこと、お教えします!今度こそ!!」


「いや、とても嬉しいんですけど、やっぱり俺には……それにリリナさんの時間取らせるには」

「やらせてください!もう一度でいいですから!!」

「……そ、そこまで必死になります?まぁリリナさんかそれでいいなら」


あまりにも必死な形相に押されて、レクスはたじろぎながらも了承した。

リリナはそれを聞いてガッツポーズを取る。


(よし!よしよしよし!!レクスくんからオッケーが出た!マリー様の弊害があるもののこれでレクスくんとデートが……ん?デート?)


今の状況を思い出す。

マリーがいない。そして、自分と一緒にいるのはレクスである。

そんな彼と一緒に帰っている……二人きりでだ。


これが一体、彼女の頭の中で何を思い浮かんだのだろうか?


(……えっ?あれ?もしかして今私……レクスくんと……)


「?リリナさん?」


「ッ!?!?は、はわ……はわわわわわわ!?!?!?」


最近の彼女はレクスと関わる機会が多いが、忘れてはならない。

彼女は……とてつもなく初心な乙女であることを。


彼女はレクスと二人きり……デートをしてしまったことで心の鼓動も身体もオーバーヒートの如く熱く激しくなってしまう。

リリナがそんな状況に冷静でいられるはずもやく……。


「リリナさん?」

「ひゃ……ひゃああああああああああああああ!!!!!???」


街中に轟くような絶叫を上げて、そのままレクスから離れるように走り去っていった。


「………えっと、なんだったんだ?」


その原因を作ったレクスはというと、彼女の行動に呆気を取ることしかなかったのだ。


(レ、レクスくんと二人きり!?!?はわわわわ!?こ、これから私、どんな顔して関わればいいの!?!?)


これが今のリリナの悩みであり……彼女が感じる幸せであったのだ。






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