第25話 分かり合えた親子
今この場全員が俺のことを注目している。
一斉に視線を向けられる体験などほとんどなかったため、動揺してしまうが、それでも俺は自分の意見を言うため、口を動かす。
「こ、今回の問題について!その……ま、マリー様に全て押し付けるのは間違ってると思います!お、俺にも責任があります!!」
「れ、レクスくん?」
「貴方、なに言って……」
リリナさんと呆気に取られたような反応とマリー様の鋭い目つきがこちらを射抜くが関係ない。
俺はイミリアさんとリリナさんに訴えるために彼女たちの方に向く。
「……貴方の意見も一理あるわレクスくん。でも今回の問題はクライバス家とギルドの」
「じゃあどうしてマリー様だけ責任を押し付けようとしているんですか?」
気になった。過去の件はともかく、今回の件については俺にも責任がある。というより、俺が動いていればここまで問題にはならなかった。
なのに話を聞いてみれば、マリー様にほとんど問題を押し付けようとして、違和感が拭いきれなかったのだ。
まるで、全ての件を彼女の責任にしてほかは無関係みたいな……。
それを指摘されて都合が悪いのか、イミリアさんが俺から視線を外す。
「……貴方は黙ってればいいの。お願いだから余計なことはしないで」
マリー様が俺にそう言ってくるが、俺はそんな彼女に言葉で返す。
「だったら……なんで、俺にあんな目を向けたんですか?」
ずっと一人で抱え込もうとして……彼女の待遇を考えれば仕方ないかもしれないが、それでいいはずがない。
「誰かに助けを求めてる人の手を差し伸ばさなかったら意味がないんですよ。俺が、冒険者をやる意味が」
「ッ!」
初めてマリー様が動揺した。
いつもの俺ならそれに驚くが、今はそんなことよりも大事なことがある。
「イミリアさん、リリナさん。今回の……いえクライバス家の過去の問題含めて責任を俺とマリー様にしてくれませんか?」
その発言に全員が驚愕する。当たり前だ、こんなクライバス家とは程遠い無縁な冒険者が責任を背負うというのだから。
「だ、だめです!それは許容するわけにはいきません!」
リリナさんが真っ先に猛反発をした。彼女の表情がいつもよりも険しいものだとよく分かった。
いつもは冷たい態度のはずなのに、なんだかんだで優しい人だ。
「……話を進めて頂戴」
イミリアさんはあくまで冷静だ。しかし、彼女も少し予想外な発言に戸惑ってるのが分かった。俺はそのまま彼女たちに説明する。
「難しいことはわかりませんが……今回の件、ギルドにしても、クライバス家にしても大事にはしたくないはずです」
「……それで?」
「なのでクライバス家とギルドの責任ではなく、俺とマリー様個人の責任にするんです。そうすればまだ穏便に済むはずです」
「でも過去の件はどうするの?マリー様は他にも冒険者の人たちにもレクスくんのようなことをしてきたわよ」
「……例えばですけど、マリー様と俺が元々知り合いで、俺が彼女を脅したってことにすれば」
「ッ!?いい加減にしなさい!!」
バンッ!と床が力強く叩かれる音が響いた。見ると、マリー様が息を荒くしたままこちらを睨んでいた。
「なによそのでっち上げ!?ふざけんじゃないわよ!!あなたにそんなことする義務があるわけ!?」
「……マリー様」
「大体なによ、昔からの知り合いって……だったらもっと早くに!!……はやくに……知りたかったわよ……!」
感情が爆発したせいなのか、抑えていた涙が彼女の瞳から零れ出てしまい、そのまま座り込んでしまった。
「……なんでよ……なんで、あなたは……そこまでして馬鹿なこと、するのよ……」
「……確かに馬鹿かもしれませんが、それでも泣いている人を放っておけるほど馬鹿じゃありませんよ」
「……レクスさん。一ついいでしょうか」
先程まで見守っていたウロス様が俺に声をかける。見ると、普段の優しいものはなく、そこには当主としての威厳を放っている姿があった。
「あなたがマリーのために自己犠牲を払ってくれることは分かりました。ですが、なぜそこまでのことを?なにかクライバス家に見返りでもあるのでしょうか?」
もしふざけた返事をしたらただじゃおかないと…てそう言ってるようにしか思えなかった。
しかし、そんな圧を放っている彼女の前なのに、俺は自然と口が動いた。
「……ウロス様に頼まれましたから、マリー様のことを。だから彼女一人の責任にさせるわけにはいきません」
「………それでしたら責任は私が」
「それも、だめなんです」
彼女が言いそうな言葉を俺は遮る。
「彼女だって……少しずつ大人へと近づいていっています。全ての責任を親が取る……それって本当に、子を大切に思う親なんですか?」
俺は、何度もフィリシアさんの、二人の元で育ってきたからこそ分かる。
自分の罪は、誰に頼らずに自分で贖うべきだ。償って初めて、その罪が許されるのではないであろうか。
それに……きっと母想いのマリー様ならこう思うはずだ。私のせいでお母さんは……って。だから敢えてマリー様の責任にすることで、その負い目もできるだけ減らせるようにしたい。
「……じゃあ私はどうすれば」
「……それでしたら一つ、お願いしたいことがあります」
彼女の本音を奪うようで悪いが……きっとこのままじゃ言う機会も無くなると思うし。
「これからは、マリー様との時間を増やしてくださいませんか?」
その言葉にウロス様、マリー様、スミーヤさんが目を見開く。
「マリー様は、とても親思いの優しい人です。だからあまり時間を取らせてはいけないと考えてるはずです」
「マリー……」
「えっと……仕事とかもあって忙しいと思いますが、そこはその……俺、私が手伝います!何ができるかわかりませんが……だから!…だから、もう少しだけ娘さんと一緒にいてくれませんか?」
言い切ってから俺は頭を下げる。たかが冒険者の意見で変わるとは思わないが……それでも、少しでもいいからマリー様と一緒にいてほしい。
「……奥様。私は少々お席を外します。用事が出来ました」
「……えぇ、そうしなさい」
スミーヤさんの声が聞こえ、出ていった音が聞こえた。
「レクスさん」
「は、はい」
「……私の予感は間違っていませんでした」
顔を上げると、頬を緩ませているウロス様の姿が……紛れもない、母の姿であった。
「あなたに頼んでよかったと、そう思います。そのおかげでマリーは……少しだけ変わってくれました。ですが……」
そう言って、マリー様の元に近づき、彼女の頭にそっと触れる。
「あ……」
「……私から動かないと、貴方は本当の意味で変わらないものね」
「ッ!……う、うぅ……ごめんさない……ごめん、なさい…かあ、さま……!」
ウロス様の言葉にマリー様は泣き崩れ、お互い抱き合った。
やっと二人が本当の意味で本心が伝わったようで……それがなぜだか心地がよかった。
「……いいお話の所悪いけど、こっちの話も進めるわね」
「ッ!?は、はい!」
「……単刀直入に言うけど、レクスくんの要望はほとんど受け取れないわ。でも貴方の気持ちはちゃんと伝わったわ」
「イミリアさん……」
「今回のことは私とそこにいるリリナでなんとかするわ。それでいいでしょ、リリナ?」
「……………はい、ありがとうございますイミリア」
「……あんたのそのできる女の設定、もう辞めたら?知っている身からしたらなんだか痛く見えるわ」
ため息をついてなんだか痛い人を見るような目で見ているイミリアさんに納得がいかないのか、リリナさんは抗議しているように見えた。
……これで、よかったのだろうか。いやよかったはずだよな。だって、俺の目の前にはやっと分かり合えた二人の……クライバスの親子が見えたのだから。
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