第26話 後日談
クライバス家の騒動から数日が経った。
あの後の出来事なのだが、今回の騒動についてはギルドとクライバス家の両方の問題という項目で街に発表したらしい。
元々、俺がやっていたような依頼というなのお手伝いをしてくれる初心者の冒険者がいなかったというのが根本な原因であった。
これに対してギルドは新たに規制を掛け、街の人のお手伝いを積極的に行う様に、特にこれからギルドに入る初心者の冒険者に呼びかけた。
また、マリー様の件についてだが、元々彼女から追い払ってきた冒険者は問題点が注目されていたらしく、人々からの怖い印象は残ってるものの、責められるということはほとんどなかった。
そして俺は何をやっているかというと……少しピンチに陥っていた。
「……ない………依頼が、なにも……」
そう、仕事不足だ。
元々俺の収入はお小遣い程度の依頼から何十件受けてなんとか生活できていた程度だ。
しかし、数件の依頼を達成しないと、魔物の討伐が許可されないということから、他の初心者冒険者に仕事を取られ、俺が受けていた依頼はなくなっていた。
いやまぁ、街の人たちが嬉しそうにしてたのはいいが……どうすればいいんだこれ?
もう俺も長年冒険者続けていたし、何か魔物の討伐依頼とか薬草の収穫みたいな依頼とか受けてみるか?……でも、そうすると嫌な予感……特に前に起きたリリナさんの件があるからなぁ……。
「お困りみたいですね」
「うわぁ!?」
突如背後から声が聞こえ、振り向くとそこにはスミーヤさんの姿が……。
「お久しぶりですレクス様。数日ぶりですね」
「は、はい……お久しぶりです……」
この人、気配が感じ取れないから、未だに近寄りがたいイメージがある……。
俺はそんな美人メイドさんのステルス性に驚愕していると、一枚の紙を渡された。
「?これは?」
「クライバス家からの依頼です。奥様と……マリー様がぜひ来て欲しいと」
「えっ?もう大丈夫なんですか?」
確かクライバス家は依頼出さないとか……そんな心配を察したのか、スミーヤさんはある方向を向いた。
「彼女と話し合って許可を取っていただきました。なので正式なものなので大丈夫です」
「……リリナさんが?」
スミーヤさんが見ていたのは、リリナさんであった。人はいないが、今もテキパキと働いている。
「……そういうことなら」
少し驚きながらも、俺はその依頼書……何故かもう受諾されていると思われる紙を貰った。
「レクス様」
「は、はい?」
「今回の騒動について、そして奥様とマリー様について……深く感謝を申し上げます」
そう言って、スミーヤさんはお辞儀をした。
うっ……なんかえらい貴族のメイドさんから正式にお礼されるとなんだかむず痒い……。
「頭を上げてください。俺はただきっかけを与えただけです。特に特別なことはしていません」
「しかし……」
「……何かお礼をしたいなら」
依頼料、増やしてくれないかなぁ……と、少しだけ思ったりする。
すると、スミーヤさんは何か察したのか、突然何かを取り出して……それを渡してきた。
「どうぞ」
「えっ?………なんですかこれ?」
「パンツです。私の」
「……………は?」
「今さっき履いていたものです。なので今はノーパンです」
「ちょ!?」
なんちゃうもん渡してくるんだ!?俺はすぐさまそれをスミーヤさんに返した。
「ふ、ふざけてるんですか!?」
「いえ、レクス様が何か物欲しそうなものをしていたもので、私のパンツを。あ、ちなみにですが明日はTバックを履いていくつもりです」
「い、いりませんよ!?というかそんなことここで言わないでくださいよ!?!?」
……なんだか後ろに振り向けない。それほどのオーラが今漂っている気がする。
「あら、リリナ様がお怒りの様子ですね。では私はこれにて」
「ちょ、ちょっとスミーヤさん!?」
そのままギルドから出ていこうとする彼女に呼びかけるが、止まってくれるはずもなく……最後に少しだけこちらを向いて笑みを浮かべて今度こそ出て行った。
「……なんでだろ……ここからとてつもなく出ていきたい……」
……でもあの人のお陰なんだよなぁ……これ受けれたのも。
そう思いながら、何故か絶対零度のごとくこちらを睨んでいる彼女の元に向かう。
「………なんのご用ですか?変態冒険者様?」
「へ、変態冒険者……」
いつも以上に言葉の刃が鋭いような……。
冷や汗をかきなざらも、俺は彼女に伝えたいことを伝える。
「……リリナさん、ありがとうございました。クライバス家の依頼の受諾を許可してもらって」
「………別に、大したことは何もしていません………貴族の方と対立するのは、ギルドとしても都合が悪いだけですので」
「それでも、嬉しかったです」
……そろそろ行こうかな。
俺はリリナさんに一声かけて、離れようとして……腕を掴まれた。
「………ごめんなさい」
「えっ?………り、リリナさん?」
「今回のこと……私が問題を大きくしたんです……レクスさんが依頼を受けた日にウロス様と話し合って………そのせいで皆様に……レクスさんにご迷惑を」
リリナさんの表情が暗い。
自分がしたことの責任を感じてるのだろうか……俺は少し困惑しながらも答える。
「でも、リリナさんに悪気があったわけではないですよね?」
「で、ですが……そのせいで……余計なことをしてしまい……」
「……俺は、ギルドのために動いてくれたリリナさんがとってもかっこよく見えましたよ」
「ッ!……れ、レクスさん」
「あの、ですからそこまで落ち込まないでください……それに」
勘違いだったら凄い恥ずかしいけど……。
「……リリナさんが俺のために動いてくれて、ほんとに嬉しかったです」
「ッ!?!?」
「じゃあ俺、行ってきますね」
「え、あ……」
そっと手を離して名残惜しそうにしている彼女を置いて、俺は走って行った。
◇
「……レクスくん」
……あぁ、やっぱり変わらないなぁ……初めて見たあの時から。
「……私、やらかしたのに……なんだかニヤけちゃうなぁ」
ほんとはだめって分かってるけど……でも彼の優しさが、その一つ一つの言葉が私を不思議と幸せにしてくれる。
「おはよ〜……ちょっとなによその顔、だらしないわね」
「ぶぅ!開幕早々だらしないってなにさ!考え事してただけですー!」
なのに、うちの友達はこの始末だ。
あーあ、レクスくんの優しさを分けてあげたいくらいだよ。
「……よかったの?クライバス家の依頼のこと」
「……うん。問題にはしたくないし……それに、レクスくんにこれ以上、迷惑かけたくないしね」
「相変わらず厄介オタクね」
「違いますー!ガチ恋オタクですー!」
できれば、その優しさを私だけに向けて欲しいと思う時もある。
でも、彼が笑ってる顔が……私にとって、一番か宝物だから。
そんなことを思い、私は今日も彼のことを想像しながら仕事をしていくのだ。
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