第19話 焦りと関心


レクスとマリーが街から離れた森で戦っている頃、ギルドでは……。


「……うぅ、ひっく……どうしようイミリア……どうしよおおおおおお!!!」


……受付嬢でもあるリリナ・バーネットが自身の友であるイミリアに助けを乞うために泣きついていた。


「落ち着きなさいよリリナ。別にレクスくんがここから出ていくってわけでもあるまいし」


「でも!あのクライバス家からの依頼なんだよ!?受けた人は絶対にこの街から消えるっていうあの!!そんな依頼をレクスくんが受けたんだよ!?うぅ……この世の終わりだぁ……」


「……貴方はそれを止めようとしたの?」


「したよ!!前日!!みっちりきっちり!!ほら!証明書だってしっかりとサインさせたし!でもあのお転婆娘!なにかと屁理屈加えてきてレクスくんを……!!」


怒ったり泣いたりと感情豊かではあるが情緒が不安定気味のリリナの様子を見て再びため息を吐くイミリア。

今は周りに二人しないため誰かが話を聞いていることなどはなかったが、こんな会話を聞いていれば不敬罪になってもおかしくはない。


「……でもレクスくんがいなくなるのはギルド的にも、個人的にも都合が悪いわね」


事実、レクスはギルドで初心者でも受けないような依頼とも言えないお手伝いを毎日してくれている。

ギルドとしても街の人たちからしても彼の存在には助けられていたため、そんな存在がいなくなるのはデメリットでしかなかった。


「ねぇイミリア!!なんとかならないの!?レクスくんがいなくなっちゃうよ!!」


「って言ってもね……リリナ、あんたレクスくんからなにか聞いてないの?」


「えっ……うん。特に何も」


「それなら無理ね。ギルドに所属してる身とはいえレクスくんは、というより多くの冒険者は利益はもたらしてくれるけどボランティアみたい存在よ。ギルドを通してクライバス家を訴えない限り、何も出来ないわ。私達受付嬢って立場ならなおさらね」


「うぅ……じゃあこのまま何もしないで待つって言うの!?」


「現状はそうね。気持ちは分かるけど、何も出来ないんだもの……最も、何か例外が起こらない限りはね」


そう言ってイミリアはリリナを軽くあしらいながら窓を通して外を見る。

彼女は非常にドライだ。しかし、レクスに対しては少し違う。


それでも尚、落ち着いていたのは一体何なのか……彼女は無意識に笑みを浮かべていた。





「……驚いた。まさかほんとに耐えるなんて……それに、案外余裕そうだし」


日はもうとっくに沈みかかっている。

それでも尚、レクスがマリーに剣を向けてることに彼女は心の中で驚愕していた。


「……今日はここまでよ。続きはまた明日」


「……ふぅ、ありがとうございました」


彼女は報酬金をレクスに渡して、依頼の終わりを告げる。

すると、レクスも緊張感を解いて、剣を鞘に収めてそれをマリーに手渡す。


しかしそれに対してマリーは首を横に振り、彼に言う。


「それは貴方が持ってなさい。毎回毎回渡すのはめんどくさいしね。明日もまたここに来なさい」


「……あの、他の依頼を受けてからではだめですか?」


「だめよ。そっちはまぁ……クライバス家の騎士にでもやらせておくわ。貴方はこっちに集中しなさい」


「……分かりました。ではお気をつけて」


そう言って、レクスは報酬金と剣を持って立ち去っていった。

その彼の様子にもマリーは密かに驚いてた。


「あいつ、中々に根性もあるのね。今までの冒険者なら音を上げて去っていったのに……ふぅん」


……なるほど、母様が気に入るわけだ。

マリーは今まで私利私欲のために自分たちの依頼を受けた冒険者とは異なるレクスについて初めて関心を抱いた。


「……まっ、そんな化けの皮は後々崩れ去ると思うけど」


だが、信用などしていない。彼女は吐き捨てるようにそう言って、汚れきった衣服を特殊な力……魔法で綺麗にしてから剣を収め、森自身の屋敷に戻るように後を去っていったのだった。



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