第18話 天真爛漫なお嬢様
「あの、マリー様?今日は一体なにをするのでしょうか?」
「黙ってついてきなさい」
「は、はい……」
現在、俺は無理矢理?マリー様に連れて行かれており、今は少街から離れてた森の中にいる。
なにをされるんだ?またわんこプレイ?それとも人がいる所ではやれないひどいことでもされるのか??
「……貴方、私のことなんだと思ってるのよ。そんな暴虐無人みたいな行為をするわけないでしょ?」
「す、すみません……でも俺……僕のこと連れていきましたよね?」
「それとこれとは別よ」
自覚されてるのね……そんなことを思ってるとマリー様から一本の剣を投げ渡される。俺はそれをなんとか受け取った。
「……これは?」
「昨日は悪かったわね。少しふざけてたわ。ちなみに貴方、剣はもちろん扱えるわよね?」
「え?え、えぇ……人並みには」
そう答えると、マリー様はそう……と答え、おそらく自身の剣であろう獲物をこちらに構えた。
「構えなさい」
「え?」
「なにボケっとしてるの。早くしないと……」
すると、マリー様の姿が見えなくなる。第六感ともいえる本能が危険だと示し、俺はその場でしゃがんだ。
「……ほんとに取り返しのつかないことになるから」
そこには、どこかのお嬢様とは思えない圧倒的な闘気を纏ったマリー様の姿があった。
それで本気だと分かった俺はなんとか彼女から距離を取りつつ、鞘から剣を抜く。
「あら、意外と様になってるそうじゃない。期待できそうね」
「……マリー様。これは一体どういう………」
「どうもこうもないわ。私はただ、やりたいことをやってるだけよ。まぁ、お世話係って言えるものなのかはわからないけど」
そう言って、マリー様は慣れた手つきで剣を自在に操る。
「そういえば、私がこれをやり始めると一斉に冒険者がいなくなるのよねこの街に。まぁそんな腰抜けの金と女ばかり見えてるヤツのことなんて知らないけど」
「ま、まさか……」
今まで冒険者がこの街から出ていったのって……マリー様の天真爛漫なことに嫌気が差したんじゃなくてマリー様に恐れて逃げていったってこと?
さっきの動きだけでも相当な実力者だってことは理解できた。
でもそう考えれば辻褄は合う。
お世話係の、それもただのご令嬢のお世話で何人もの人が逃げ出すわけがない。それに報酬金額も普通の冒険者からしたら破格、でも彼女の予想外の強さに恐れた……だから今までマリー様の依頼を受けた人は漏れなくこの街から出ていったのか。
「私、大っ嫌いなのよね〜。金と女しか見てない冒険者なんて……母様あれでも若いから凄いモテるのよ?だから奴らは目につけられようと必死必死。醜いわほんとに。貴方もそうじゃないの?」
「……否定はしません。僕もお金は必要です。生きるのに精一杯ですから」
「随分と潔いわね。正直者は救われるからいいことよ。まぁ」
すると、再び彼女の剣が俺に目掛けて斬撃が飛んでくる。
「それで、私が許すかどうかは別だけど」
「……マリー様」
「ねぇ、なんでクライバス家が貴族になれたか分かる?」
すると試すようにマリー様がそう聞いてくる。クライバス家は何かの功績を残して貴族となれた。その多くの要因は確か……。
「……強いから、ですか?」
「正解よ。母様ったら凄い強いのよ?一人で軍と戦えるくらいにはね。その母様から私は教えを受けてるわ……この意味、理解できる?」
……マリー様も相当な手練れということか。自然と嫌な汗が湧き始める。
「今日の夕方よ。それまで私と打ち合って耐えきれたらそれで依頼はおしまい。単純で明解、簡単でしょ?」
「……それにしては相手が悪すぎる気がしますが」
「あら、分かってるじゃない。頭が良くて察しのいいお犬のクロに昇進してあげるわ」
「それはでどうも……ありがとうございます」
深呼吸をして俺はマリー様の方に剣を向ける。それを見た彼女は不敵に口元がニヤリと歪み、こちらに剣を向ける。
「じゃあクロ。天真爛漫な私の御遊びにどうか、付き合ってくださいまし」
「……喜んで。マリー様」
最期にそれだけマリー様と会話して……俺達の剣は鈍い音を出して交わったのだ。
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