二章
第11話 リリナとレクスの会話
朝方、風により鳴き声とも表現出来る森のさざめきが聞こえてくる。
俺はいつもの鍛錬を終えてから身体を伸ばして父や母の墓でお参りする。
「……父さん、母さん。今日も頑張ってくるね。じゃあ……いってきます」
生活は大変だけど……今日も頑張るぞ!
「よし、今日も行くかレクス!」
気合いを入れて俺のギルドがあるミルティーユに向けて走っていった。
◇
「うーん……今日もいつも通りかな……」
依頼を見て回ってみたけど……特に変わったようなものがない。
依頼というよりかはお手伝いと言った方がいいかもしれない。
たまにそれでバカにする奴らもいるけど、それでもいいと思ってる。
それで街の人たちが笑顔になってくれるならね。
そんなことを考えながらお手伝いというなの依頼を次々と取っていくと……興味のあるものが見つかった。
「……お世話?」
どうやら貴族のご令嬢のお世話をしてくれる人を探しているらしい。
報酬金は……結構多いぞ。
「……確かこれって前にも見た気がするけど……なんでみんな受けないんだ?」
……少し疑問に思ったが……誰もやらないなら俺がやろうかな……。
何故か嫌な予感はするが、俺は気のせいだろうと軽く考えて、最後の依頼としてそれを選ぶことにした。
「今日はこれ合わせて二十件か……」
……まだほとんど人が来ないうちに依頼の手続きをしてもらおう。
そう思い、いつも通りに……澄ました顔で受付で待っているあの人の所に向かう。
「リリナさーん。すみません、今日はこれでお願いします」
「……分かりました。少々お待ちください」
……相変わらずの流暢のない言葉で塩対応だ……変わらない。
そう思っていたんだが……彼女の顔を見るとそうではなかった。
「あれ……それってつけてくれてたんですね」
「ッ!……も、貰いましたから……使わないと勿体無いでしょうし……」
へぇ……なんか嬉しいな。それにやはり顔が整ってるから眼鏡をかけていても違和感がない……というかさらに磨きがかかってないか?
「わざわざ使ってくれてありがとうございます。なんだか嬉しいです」
「っ……も、貰い物、ですから……」
何故か頬を赤らめて俺が取ってきた書類をパラパラと確認している。
「……あ、あの……レクスさん」
「?はい?」
「そ、その……この魔道具、ずっと掛けていた方がいいですか……?そっちの方が……可愛く見えるでしょうか……?」
ん?なんでそんな質問をしてくるんだ?彼女の質問の意図が分からない……あ、もしかして他の人の視線が気になってたのかな?
そうであればじっくり考えなければ……。確かに彼女に使って貰えるのは嬉しいけど……。
「そうですね……眼鏡を掛けていた方が出来る人ってイメージがあってとてもいいと思います」
「……そ、そういうことを聞きたいんじゃ」
「でも」
「?」
「俺は眼鏡を掛けてないリリナさんの方が好きですよ。なんだか……安心感がありますから。勿論、眼鏡をかけても美人さんに見えてとても新鮮でいいものなのですが」
……あ、やべ。なんか変なこと語ってしまった……?
「す、すみません。変なこと口走っちゃって……」
「……………………」
「?リリナさん?」
「ッ!な、なんでもありません!と、とにかく分かりました!ありがとうございます!」
「は、はぁ……?」
何故か怒られた……?いや、それにしては嬉しそうた頬が緩んでるような……気のせいか?
「……依頼書の確認しました。それではどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつも通りにその何十もある紙を貰ってから、ギルドから出ていこうとする。
「……あ、あの!」
「は、はい?」
だがその前に引き止められてしまった。今度はなんだ?
「き、今日も……」
「今日も?」
「……………今日も!……が、頑張って、ください……」
だんだんと声が小さくなって聞き取りづらかったが……その言葉に俺は驚きと同時に嬉しく思った。
「……はい!頑張ります!」
どうやら、対応が素っ気ないだけでリリナさんとは仲良くやれそうだ……そんな気がした。
そうして俺は依頼場所に赴くべく、今度こそギルドから出て行った。
◇
「……ふにゅう……」
誰もいないギルドの中。リリナは自身の顔を冷やすように両手を頬に当ててるが……未だに熱っている。
「き、急にあんなこと言われて……は、恥ずかしいよぉ……」
『俺はリリナさんが好きですよ』
「ッ!?!?そ、そんなの……私の方が何十倍もレクスくんのことが好きなんだよぉ!」
彼はそんなことは言ってない。
しかし、そんなリリナの脳内再生にツッコむ人はおらず、しばらくの間、彼女は悶えていたようだ。
そして、動揺をしたせいで……彼女はしっかりと確認していなかった。
レクスが選んだ……貴族の依頼の内容を。
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