第7話 ハプニングと……
「いやぁ〜大量大量!それに、今日はいつもよりも早く依頼が終わった気がするぜ!」
そうは言ってももう夕日に近いけどな。橙色に染まっている空を見てそう思う。
「やっぱレクスがいるのといないのとじゃ効率が違うわね。貴方本当に15歳なの?実は私たちよりも熟練なんじゃない?」
「あ、あはは……これでも3歳の時から鍛錬を始めたからね。少しは二人の役に立てて良かったよ」
「ったりめぇだこらぁ!調子に乗りやがってよぉ!!」
「うおっ!」
ベルゼが俺の首に手を回したと思ったらもう一方の手で俺の頭をゴリゴリとしてくる。
い、痛い……相変わらずの馬鹿力だな……。
「今日はレクスの奢りだぁ!パーっとやろうぜパーっと!」
「い、いや……俺、酒とか飲めないしやることが……」
「いいじゃない。たまには付き合いなさいよ。大人の体験させてあげるわ」
舌なめずりをして俺の方を鋭い目でじっと見ている。
酒の事となるとエスティアも周りが見えないのか……似た者同士だなの二人。
ベルゼとエスティアと歩きながらそんな会話をしていると、立派に建っているギルドが見え始める。
「おっ!そろそろ着いたみたいだ。じゃあレクスはここで待っててくれ。流石にあの人にバレたらまずいからな」
「あの人……?」
誰のことだ……?確かにバレたら面倒な人はいるけど……。
「……分からないならそれでいいわ。貴方の鈍感とあの子の態度は今に始まったことじゃないもの」
「?」
エスティアが呆れたようにため息を吐く。なんで俺の方をジト目で見てるんだ彼女は?
「とりあえず行くわよ兄さん。早く酒でも飲みたいわ」
「おう、そうだな。じゃあレクス!また後でな!」
「あぁ」
そう言って二人は依頼達成の報告のために、ギルドに入って行った。
俺はそんな兄妹に手を振って、彼らが来るまで外で待つことにする。
「……今日の夕飯は何にしようかな……照り焼きとかもいいな……あ、いや栄養も考えて野菜の炒め物も……」
いつも通りに教会に届けるための献立を考えていく。
そうしている内にしばらく経っていったのだった。
◇
「………遅い」
あれから数十分は経ったぞ。確かに人は多いが、俺たちが来た時にはそこまで多くはなかった。
だから手続きにここまで時間がかかるとは思えないんだが……。
「……もしかして何か問題を起こしたのか?」
昔から二人は何かしらトラブルに巻き込まれることが多く、それが原因で煙たがられるとこもあった。
「二人には待ってろって言われたけど」
……様子だけなら見ていってもいいよな。
そう考え、俺は巨大に聳え立っているギルドの扉から中を覗いてみる。
特に怪しいものは何も……ん?
「な、なんだあれ……?」
見間違いかもしれないからもう一度目を擦って……駄目だ、どうやら幻覚ではないみたいだ。
そこには、ベルゼとエスティアが正座をさせられており、酷くご立腹の様子に見えるリリナさんの姿があった。
「な、なんでリリナさんに怒られてるんだ二人とも……というかあの人怒っている姿、初めて見たぞ」
その姿に周りの冒険者も……いつも一緒にいるイメリアさんでさえ黙って見守っていた。
……あ、二人がこっちを向いた。そしてそれに伴いリリナさんもこっちを向いて……凄い勢いでこちらに近づいていた。
え?なになになになに!?
「レクスくん!!」
「うわぁ!?」
鼻と鼻が当たりそうなくらいに俺の視界がリリナさんに覆われる。
ち、近い……というか改めて凄い美人だな……。
「だ、大丈夫?怪我はない?あの悪い二人に脅されたなんてしてない?」
「え、あ、あの大丈夫です。そんな心配しなくても……」
「ほ、ほんと?ほんとに何も隠してない?もしレクスくんに何かあったら私……」
いつもの素っ気ない様子とは真逆で今は感情豊かに……とてつもない悲しい雰囲気を纏って俺に話しかけてきた。
な、何が起きたんだ……?俺、まさか何かやらかしたのか?
と、とりあえず事情を話したほうがいいよな?
そう思いながら、俺は半ばパニック状態のリリナさんに今日のことを話したのだった。
◇
「…………そう、ですか」
俺が全てを話した所……彼女は俺の知っているいつもの雰囲気を纏っていた。つまり……素っ気なくなってしまったのだ。
一応その間、ギルドの冒険者の人たちはほとんどいなくなっており今このギルドにいるのは少人数だ。
「……お二人さん」
「「は、はい!」」
ただ、それでも何か二人には言いたそうにしており……彼女がベルゼ達を呼んだ時……何故か怒りが含まれている気がした。
「次レクスくんを連れて行く時はぜひ私に言ってくださいね?」
「い、いやでも」
「分かりました!!」
「……え、エスティア?」
その勢いある返事に兄であるベルゼは戸惑っている。
きっとここまで必死な様子の彼女は見たことがなかったのだろう。
「よろしい……では報酬です。レクスくんの報酬は私が支払っておきますので……今日はお疲れ様でした」
「は、はい!ほら兄さん帰るわよ!私たちはお邪魔虫よ!!」
「い、いていててててて!?わ、分かったから耳を引っ張るなお前は!?」
俺に会釈してから二人はギルドを出て行った。
中に残ったのは……一応俺とリリナさん。き、気まずい……。
「……れ、レクスく……さん」
「は、はい…?」
「お願いですから、今後このような討伐依頼を受ける時は絶対にお仲間を連れて行ってくださいね?」
「え、あはい……なんだかすみません」
……心配かけてしまったのか?いや、彼女は俺のこと嫌ってるはずだ……なのになんでだ。俺のことをとても心配そうに見ているのは……。
「……それではこれは本日の報酬でごさいます」
そんな予感も束の間、彼女は俺に報酬の入った布袋を渡してくれた。
一言お礼を言ってから、その中身を確認する。
……うん。いつもよりも足りるから、これな
ら生活費の足しにもなりそうかな。
「ありがとうございますリリナさん。今日はなんだかすみませんでした」
何はともあれ、彼女に迷惑を掛けたのは確かだ。
リリナさんにお辞儀をしてから、俺はギルドから出ていこうとする。
「……………あ、あの……レクスさん!!」
「?はい?」
だが、彼女に止められる。振り返ってみると……何かを言いたそうにしてる様子が目に映った。
「その……今日は………今日は…………きょう、は………………」
何度も、何度もその言葉が繰り返される。それを無碍にしてはいけないと感じた俺はじっと彼女のことを待つ。
そしてしばらく経ってその言葉が俺に言い放たれた。
「………今日は…………お疲れ様でした」
たった一言。当たり前のような言葉だった。
でも俺にとってはその一言は……何よりの報酬だと感じた。
「……ありがとうございますリリナさん。そう言ってくれると、明日も頑張れそうです……嬉しいです」
「……………………そう、ですか」
何故か頬を赤らめている姿は不思議と思ったが……少し分かった事があった。
「じゃあまた明日。よろしくお願いします」
——少しは彼女と仲良くなれたということだ。
◇
レクスが出ていったギルドの中、リリナはじっと見つめていた。
「なにぼーっとしてるのよ。まだ私たちの仕事は終わってないわよ」
いつも通り、イメリアが彼女に声をかけるが返事がない。
違和感に思った彼女はリリナの顔を見て……顔を顰めた。
「……あんた、一体どんな顔してるのよ」
「だ、だって……だって……だって……」
「?」
「だって……レクスくん。私に笑顔向けてくれた……嬉しい……嬉しいよぉ……!」
今日は色々とあったものの……彼女にとっては忘れられない一日となったようだ。
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