第30話 闇


 フーコは私に一緒に行こうっていったの。それに対して私は勿論と答えたわ。


 でもそれは全部嘘、私は自分が力に覚醒していっていることに気づいた。そしてこれは崇高なものだと感じるようになり、ダンジョン攻略などもってのほか、この力を高めて最強になりたいと思うようになった。


 そして私はフーコを裏切って力でねじ伏せた。


 力が体に満ち溢れて最高の気分だったわ。こうして私はフーコの元を離れた。


 でもそれは今の記憶である。本当の記憶は分からない、ある時点から、自分の記憶が挿げ替えられていたような気もした。


 私は元々、会話ができない無口な人物だった。


 私の実力は多くの一員の中で突き抜けていた。だから話す必要がなかったと思っていた。


それをフーコが現れたことで変えてくれた。


異質という存在は何かと蔑まれるものである。


 少しの違いというものは人に不信感を与える。意識していてもその影響がでるのは避けられない。


 私はそれがたまらなく辛かった。周囲の関係は崩壊していく。私という存在が崩壊をうむである。


 いやでもこれは狂う。力を持ってしまったものは、孤独となるのである。


 フーコ、あなたも私と同じ孤独の道へと足を踏み入れるの。そのための力。


 でも彼女は違っていた、その力を持ってしていても、全ての影響を調和させていた。力を持った私を拒絶した世界が、彼女を受け入れたのである。


 そう、あなたと私は違うの。世界に愛されているのね。それはとって妬ましいものだ。


 やっとできた力による孤独を手に入れたと思っていたフーコは世界から愛されていた?いやそんなはずはないだろう。世界はある一定のルールにのっとってできている。


 彼女も世界に拒まれなければいけないはずである。そういう仕組みのはずなのだ。わたしとフーコ、いったい何が違うのだろうか。


「とても、悩んでいるようだね?」


「誰だ?」


「いやだな、忘れちゃった? キルレ、一応君と同じギルド所属なんだけど」


「知らない名前だな」


 そもそも私はギルドの顔も名前も遮断していて知らない。ただ与えられたミッションを淡々とこなすだけである。


「いったい何のつもり?」


「フーコと君は違うよ」


「なんだと?」


「そもそも力が違う、世界の法則では力を持つ者は孤独になる、それはあたりまえのことだ」


「そうなのか、だが実力は互角のはず」


「じゃあ、これをみなよ」


「これは光?」


「うん、君には適正がある。フーコを超える最強の力、これが決定的な違いさ」


「力が溢れてくる」


 そうか、そういうことか。私の力はまだ強すぎたのか。


 フーコでさえ私の特別の前ではかすんでしまうということなのか。


 闇が視界を覆った。


 今日がニュートラル解散の日である。


 ダンジョン攻略賛成派はフーコが率いるギルドオブへヴンへ、ダンジョン攻略反対派はキルレ率いるギルドオブヘルに行くことになる。


「フェリシリア、明日はここを離れないといけない。ギルドオブヘルとは完全対立が始まった。だからニュートラルは完全に分裂したことになる」


 双方の分裂は自然に行われるものではなく、じわじわと両陣営の思想の対立による攻撃による強制的なものだった。


「分かってるわよ」


「フェリシリア? あなた雰囲気が変わった?」


「いや」


「じゃあ、明日の夜ここを離れるから」


「うん」





「フーコさん、フェリシリアさんがいません」


「そんな、どこにいったの」


「まだ部屋にいるようです」


「どういうことなの? 今から戻ることはできない」


「私達3人なら瞬間移動スキルでフェリシリアさんを連れ出せます」


「じゃあお願いできる」


「分かりました」


 トリオヘヴン、私のアサシンのような存在である。とても頼もしい仲間だ。この3人ならフェリシリアを連れ出してくれるはず。そう思っていた。


 しかしトリオヘヴンが帰ってくることはなかった。


「そろそろ行かないと」


「でもトリオへヴンが」


「それよりフーコが今は大事」


「……」


 後日トリオヘヴンがフィリシリアの裏切りによって葬られたと判明した。


 フェリシリアはヘル側についたのだ。


 私はこれの原因を追い求めた結果、兆候を見せたマテリアコードの人格変化だと思った。闇に完全に囚われたのだ。



「なんでダンジョンを先行できたんですか?」


「それはこのマテリアルコードの力があるからだよ」


「僕と同じ力」


「フェリシリア、あなたは力に溺れてしまっている。私が目覚めさせないと」


「それでは憎しみにいたりません」


「いや、フェリシリアは元々あんな性格じゃなかった。力が彼女を変えてしまった。私のしるフェリシリアは今のフェリシリアに葬られてしまった。だからこれは私がおわらせないといけない」


「準備はいい? もうどうあがいても埋められないという絶対的な力の差というものを教えてあげる」


「望むところ」


「ドッ!ドドドドドドド!」


 フーコさんは懐からレイピアを取り出した。フェリシリアも同様のレイピア使い、2人の戦闘スタイルは非常に似ていた。


 そして目にもとまらぬ速さの剣術の応酬が始まったのだった。


「少しは腕を上げたようね」


「くっ、こんなに対応されるなんて」


「新しいものをいくつも組み合わせて私を倒す算段を立てていたようだけど、全て即興で対応できるのよ」


「マテリアルコードの力、やはり強力すぎる、でもそれが人格変化をもたらすのは大きな代償だわ」


「そうよ、だけどかつてのフェリシリアは力を求めた。あなたに負けたくない劣等感からか、力と闇に溺れていったのよ。それが今の私」


「でもおかしい、フェリシリアは賢い人物だった。ニュートラルを維持する強い正義感も持っていた。だから全部このマテリアコードのせいなのよ」


「何?」


 フーコは剣術スタイルを更に変化させた。


「少しの時間だけ耐えて」


「ぐああ」


「凄い攻撃でフェリシリアを圧倒した!」


「みんなの感知を解いたわ。これで私は全力をだせる」


「くっ、そんなことをしたら、他のプレイヤーはあなたの感知スキルが使えないわよ」


「レオ君ありがとう」


「何?」


「能力維持スキル、これで数分間フーコさんのスキルは解除後も維持されます。ただ時間はあまりないのではやく終わらせてくださいね」


「ありがとう」


「そんな技が、いったい何者だあいつわ」


「私が見込んだ、最強の現役プレイヤー、でもあなたは彼と相対するまでもなく私にやられるのよ」


「ふざけるなあああ!」


「全ての感知スキルを解除して、この場に一点集中させる、確実な一撃。あなたの弱点を的確に打ち抜く」


「うわあああああ」


 感知スキルを集約して、フーコさんの一撃がフェリシリアを貫いた。


「ふう、終わった」


「やりましたね!」


 スキル維持が解除された。


「また感知を発動」


「おかしい」


「え?」


「拘束が解けません」


「なんですって」


「ふふふ、あははははははあ」


「嘘?」


 凄まじいフーコの一撃で起きた煙塵の中からフェリシリアの笑い声が聞こえた。


「なーんちゃって。ただのやられたふりでした」


「傷がない」


「あなたの攻撃は全部お見通しなのよ」


「そんな」


「いい目をするようになったわね」


「何がいいたいの?」


「本当は薄々勘づいているんじゃないの? 私は力に飲まれてなんかいない。自らの意思で離反した」


「そんなはずは」


「私が離反した時あなたが、仲間をこっちにやらせたでしょ。ひっかかってるのはそこなんじゃないの」


「そう、だから、力に溺れたせいで」


「いや、あれは私が自らあなたの仲間を葬ったの。私にとって見えてる世界は、力を持つ人物以外は認識外でどうでもいい存在だったのよ」


「そんなはず……はっ」


「ああ、感知力をあげたことが仇となったわね。その様子だと私の深層心理が見えちゃったようね」


「なんでこのタイミングで」


 フェリシリアの心は闇そのものだった。


「私は閉心術で意図的に心をよめなくしているのよ。ただこれは解除することもできる。まあ、それでも心をよむなんて普通の人にはできないけどあなたは特別だったみたいね」


「あなたが私の仲間を」


「ええそう、あなたの仲間を葬ったのはこの私の本心、私は力に飲まれてもいない、全ての人は私にとって意識外どうでもいい存在、あなたもそれに入るのよフーコ」


「フェリシリアああああああああああ!」


「ふふふ、来なさい返りうちにしてあげる」


 ヘヴンになったフーコの剣がフェリシリアに向く。


 しかしフェリシリアは魔法防壁でこれを防ぐ。


「ここまでとは」


「ふふふ、終わりですよ。全てがね」


 フーコが力を強めてフェリシリアの魔法防壁はびくともしなかった。

 

 強める力に反響していき、フェリシアの魔法防壁は闇のように漆黒に染まっていく。


「ぐああああああああ」


 フーコの剣先から雷撃がほとばしる。剣をしならせて、手には激痛が走る。


 攻撃している側が逆にダメージを受けるという状態が発生していた。


「こんなことが……」


「もういいよフーコ。あなたは私にとって特別さを消せると期待するための道化に過ぎなかった。今はもはやと用済みの存在よ」


「ぐああああああ」


「ドドドドドドドド」


 フーコさんはすさまじい威力で吹き飛ばされた。


「じゃあね、あなたは過去の人よ」


 

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