第22話 幹部
「ミレイは元気にしていたか」
「ええ、勿論」
「貴方の話は聞いたことがありませんでしたが」
アイシアは僕のことをミレイの友人だと思っているようだ。実際そうであるが、こっちの人格の僕はそんな接点はないただの敵同士なのである。
だがこれは全てにおいて都合がいい状態だ。
「私など取るに足らない姉だ。妹を裏切りヘルに所属した」
「どうしてミレイさんを裏切ったのですか?」
「私はダンジョン攻略には反対だった。非日常が味わえるダンジョンが消えれば、私の日常は味気ないものに変わる。そんな空虚な生活は私にとったら最悪の未来なんだ」
「あなたもダンジョンという非日常にとらわれた存在でしたか」
「ああ、確かに助けてもらったことは感謝する。だがダンジョン攻略をするお前の私は敵となる」
「そうとも限りませんよ」
「何?」
「僕もダンジョン攻略反対側の人間ですからね」
「そんな馬鹿な、貴様はダンジョン攻略を好んでしている。しかも未公開ダンジョンにまでやってきた最先端攻略勢、私たちが最も警戒するべき存在だ。そもそもなぜ貴様はここにこれたのだ、情報は洩れるかもしれないが通常プレイヤーは見えない壁に阻まれるはず」
「情報はフーコさんから教えてもらいましたね。その壁は僕が特別な力を持ってるから通れたようです。フーコさんも驚いていましたよ」
「フーコの奴の差し金だったか! じゃあダンジョン攻略側に人間じゃないか」
「いや、僕はフーコさんの意思にも従わない存在です。目的はあなたと同じ非日常を味わうためですよ。だからダンジョン攻略は反対側です」
「じゃあ、どこまで攻略しようと思っている、このダンジョンは100層まであることを知っているのだろう?」
「100層までクリアして僕自身がダンジョンの守護者になりますが」
「はっはっはっ…お前が100層まで行けるわけがないだろ。うちのボスですら90層が限界 なのに」
「ほう、既に90層までが裏ルートで攻略されていると」
「そうだ。私などが足元にも及ばない。ヘルの上位勢たちは、はるか先をいくのだ」
「そうですか」
アイシアとの沈黙が流れるうちにダンジョン58層にたどり着いた。
「そろそろお別れだ」
「あの建物がそうですか」
「ヘルの拠点の一つ、あそこには幹部のイグニット様がいる。お前などひとひねりだろうな」
「じゃあさよなら」
「……ああ」
アイシアはもう用済みだ。この支部を潰せば、邪魔者がなくなる。
「黒装束が取り仕切っているようだが、どうやって中に侵入するか」
その時アイシアの声が聞こえた。
「貴様、離せ!」
「アイシア、貴様はクビだ。侵入者に情報を流したそうじゃないか」
「ば、馬鹿な、どこからそんな情報が流れた?」
「監視アイチップ、ボスがメンバーの動向を逃すはずがないだろ?」
「そんなことが」
「お前はここで終わりだ!」
「こんなところで捕まってたまるか! 風圧スキル」
「うわあああああ」
辺りにアイシアの暴風が吹き荒れる。
「アイシア、お前ヘルの人員をここまで倒す力をつけていたのか」
「私の実力を見誤ったようだな。88層の黒葬剣を手にした私の実力は幹部クラスだ。消えろ!」
「ぐわああああ」
58層支部の黒装束のしたっぱは壊滅した。
「はあ、はあ、はあ、MPを使い果たしてしまった」
「無駄な抵抗をしてくれたものだ。アイシア」
「貴様はイグニット」
「見ていたが、本当に幹部クラスの力をつけたらしい。88層の高レート武器黒葬剣、恐ろしい武器を持ちだしたものだな」
「これがあれば幹部のお前とも私は戦える。くらえ」
「ズドドド」
黒葬剣の剣劇がイグニットに向かう。
「スっ」
「しまった」
「どうした? 剣撃がそれたようだが」
「くっ、ここまでか」
「確かに黒葬剣の攻撃なら私を倒せただろうが、MP切れで使えなければ意味もない。そもそもお前の黒葬剣が使えなくなるタイミングで私がでてきたのだ」
「卑怯者め」
「とんだ暴れ馬をうちの支部によこしたものだよボスは。だがこれで終わる」
イグニットはアイシアに剣を振った。
「ガキキ」
「何?」
「びっくりしましたよ。僕が進んだ拠点は幻影で、戻ってみたら黒装束が沢山倒れてたんですからね」
「お、お前なにものだ」
「侵入者ですよ」
「僕を逃がそうとしてくれたんですねアイシアさん」
「戻ってくるなよ、これは私の戦いなんだよ。ちょうどこんな時を持っていたんだ」
「やはりあなたはヘルに容疑をかけられてましたか」
「ふっ」
「離せよ!」
「お、凄い力」
レオ様がイグニットの剣に吹き飛ばされた。
「お前が侵入者か。ここで仕留める」
「気を付けろ、そいつは炎の騎士イグニット、幹部の強敵だ」
「幹部だから服装がちがうのか」
「アイシアともども消し去ってやる!」
イグニットの業火がレオ様を襲った。
「はっ、なんだこれ拘束?」
「アイシアさんは巻き込まれそうで邪魔なんでそこから動かないでください」
アイシアをイグニットの射程外にとどめた。
「ふざけるな」
「やりますね。この出力の豪炎、予測して対処しなければ無事ではすまなかったでしょう」
「馬鹿な俺の炎を受けきっただと?」
「なっ」
アイシアはスルーされた。
「正確にはあなたの業火の出力が弱い位置を特定し、弱点である水属性の魔弾で相殺しました。まともに打ち消すことはもちろんむりですよ」
「き、貴様! 表の冒険者だから装備なら数ランク先の次元に俺が立っているはずなのにそれを予測して、型落ち装備で俺に対抗するだと?」
「ようは使い方というものです。どんな強い装備も、使い方によっては対抗することができる」
「まぐれだ!」
「ドドドドドドド」
再び業火が襲った。
「レオ気を付けろ、どんどんイグニットの出力が高まってる」
「ははは、どうした、動きが鈍くなっているぞ」
「ぐあっ」
「レオ!」
流石に数バージョン先の装備は性能が段違いですね。回避とダメージカットでダメージを最小限にとどめていてもここまでHPを削られるとは。
「どうやら次元が違うおれの装備を受けきるのに相応のリソースを払う必要があるようだな。どうだ、これが裏のトッププレイヤーの実力だ。お前は確かに表ではトップだったかもしれないが、裏の世界で通用すると思うなよ」
「おい、レオ! 拘束をとけ私も参戦する」
「結構です。僕はまだやれます」
「どうした、この危機状況で笑うとは、頭のねじが飛んでる奴のようだ」
「そうですよ。僕はこんなスリルのある極限の戦いを望んでいたんだ」
「そうかよ! じゃあ逝け」
イグニットはレオ様に出力の上がった炎の剣撃を繰り出した。
「マテリアルコード出力アップ」
「何?」
これまでのマテリアルコードは勝率10%までの敵へ勝つイメージをもたらした。出力をあげたことによりこれが1%にまで上昇した。
「追いつきました。これで確実に分かった」
「何? はやい」
「これでとどめ」
「うわああああああ」
炎を潜り抜け、レオの短剣がイグニットを貫いたのだった。
「こんな、ことが……」
イグニットはログアウトした。
「レオ、大丈夫か」
「え、ええ」
「おい、脚がふらついているぞ」
「大丈夫、ちょっと力を使い過ぎたようです。うっ」
「レオ?」
「バタっ」
スキルの使い過ぎでレオ様はアイシアの前で倒れた。
「レオ、おい! レオ」
「うっ」
「レオ! 目を覚ましたか」
「ここは?」
「レオよかった」
「ミレイ?」
「馬鹿いうな、私はアイシアだ。お前が守ってくれた」
「アイシア? うっ、ユズはどこへ、はっ」
目を覚ますとレオの主人格に戻っていた。
そしてこれまでの記憶が一気に頭を駆け巡った。
「おいどうした、青白い顔をして」
「うわああああああああ」
レオの悲鳴がダンジョン60層に鳴り響いた。
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