第21話 姉

「貴様っ! 何のつもりだ」


「いや、ギルド・オブ・ヘルにも女性の方がいたんですねと。狂った集団なのかと思っていました」


「ふざけるな、われらは崇高な目的のために動いているだけだ。貴様こそその残虐性が私からみたら狂っているわ」


「そうでしょうか。こう見えて僕は結構女性には優しい方なんですよ。勿論敵対してないことが条件ですが。今は配信外の出来事なので僕にとってはプライべートです」


「何?」


 レオ様は黒装束の傍の壁に手を伸ばした。


「貴様、なんのつもりだ」


「やはりミレイさんと似てますね。そっくりです。いったいどんな関係で?」


「さっきから誰のことを言ってるのか分からんな……っ」


「僕の目は誤魔化せませんよ。ご存じでしょう、ギルドオブヘヴンのミレイさんです」


「……」


「フーコさんから僕は聞いていました。ギルドオブヘヴンとギルドオブヘルはかつて同じニュートラルというギルドであったと」


「はあ、不思議とあなたを前にすると話したくなったわ」


「そうなると思っていました」


「気持ちの悪い能力ね。全て掌で踊らされている感覚だわ」


「それはどうも。それでミレイさんとはどんな関係で?」


「妹よ」


「これは素敵な因果ですね。僕を表に出してくれた恩人であるミレイさんの姉と早々に合うことになるとわ」


「恩人?」


「ええ僕にはもう一つの人格があるんですよ」


「ふん、貴様のことなど興味はないわ」


「でもミレイさんのおかげで僕が表にでてこられたから恩人なんです。そのミレイさんの姉であるあなたには、悪いようにはしませんよ。お名前を伺ってもいいでしょうか」


「誰が貴様なんかに名前を……うわっ」


「ズドーン」


 ダンジョン56層の魔物、個体数は少ないが強力である。そして隠密能力が備わっていて、気が付けば接近による強襲を受けることになる。


「でも僕の感知能力があれば、全てはお見通しですが」


「貴様! 接近しているなら教えろ!」


「名前を教えてくれなかったのがいけないんですよ。それにあなたならこれくらい感知できると思っていましたが」


「お前との戦闘で私はスキルポイントを全て使い果たしたんだ!」


「随分燃費が悪いんですね」


「お前が異常なだけだろ!」


「ふふふ、意識していませんでしたが僕のスキルにはポイントはないからずっと使い続けられるんですね。これは新しい発見でした」


「喋ってる場合じゃない」


「グヲオオオおオおオ」


 暗闇に紛れる狼、シャドウウルフである。


 小柄であるが、その速度はいままでの魔物とは段違いだ。


 予測していなければ、上位プレイヤーでも回避は至難の業である。


「流石ダンジョン56層というわけですね」


「感心してないではやく倒せ。そいつらは仲間を呼ぶ」


「えええ? どうしましょう」


「ふざけるな、奴らが来たぞ」


「グヲオオおオおお」


「失礼しますよ」


「うわあああああ」


 レオ様がミレイの姉の手を引っ張りながら攻撃を全てかわした。


「ここまでくれば安心ですね」


「はあ、はあ、はあ。よくやったと言っておこう」


「本当攻撃をかわせもしないんですね。お荷物ですよ」


「だまれ、スキルの他に体力も使い果たしてしまったんだよ」


「そうですか」


「なぜ反撃しなかった。追ってきてる見つかるのも時間の問題だ」


「知ってますよ。あなたの名前を聞くためです」


「いう必要はないな」


「分かりました。ではこうしましょう。あなたが名前を教えてくれたら、僕はシャドウウルフを倒します。教えない場合僕はここからあなたを置いて立ち去ります」


「き、貴様!」


「グヲオおオおオお」


「ほらほら、もうすぐそこまで来てしまってますよ?」


「……アイシア」


「アイシアさん。それではこれからよろしくお願いします」


「はあ、約束は守ってよ……っ! まずい」


「グヲオオオおオおオ」


「あれ、さっきよりでかくなってません?」


「56層隠しレイドボス、キングウルフ。私達へルのメンバーの幹部でも手を焼く存在よ」


「ほう、キングウルフですか。確かにいままでの魔物とは違いますね。それにヘルには幹部がいたんですね」


「別にこれくらいの情報はお礼として教えてあげるわよ。それより早く逃げないと」


「安心してください。負ける想像がつかない」


「なんですって」


「グヲオオおオお」


「ドーン」


「ここがクリティカルポイントです」


 レオ様は魔段スキルをキングウルフの腹部に複数回打ち込んだ。


「ぐああああああ……」


「嘘でしょ、こいつがこんなにあっさりやられるなんて」


「アイシアさん怪我はありませんでしたか」


「……くっ」


 アイシアにレオ様が手を差し伸べると、目をそらしながら手をとった。


「お前の名前は」


「え? 僕ですか教えません」


「ふざけるな」


「冗談ですよ、レオです。こっちの人格の僕はレオ様って呼ばれてます」


「ふざけた奴だな、だが実力は認めてやる」


 配信の電波阻害はこのギルドが起こしているようだ。


 僕はアイシアを利用し、全てを配信する。


 chを再興するのである。

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