第8話 同業者


「レオ君を陥れる算段のようですが、残念ながらあなた方2人の目論見は全て無に帰すということを教えてあげますよ。この僕に敗れたスキルには何の効力も持ちません。僕はこれまで通り止まらずに進み続ける。トップを取るのも時間の問題でしょう、同業者として嫉妬する気持ちはわかりますが」


「都合のいい解釈ねレオ様、フーコは私と違ってあまくないわ」


「ほーう、では次はそこのフーコさんがこの僕の相手になると……」


「ふふ、私にそんな力はないわ。ただこれだけは言える。あなたはレオ君でありレオ様ではない。自分を強く持ちなさい。今のあなたならできるはずよ」


「ふん、いったい何をいって……何?」


 フーコさんの声が聞こえる。真っ暗な精神世界の中に青く透き通ったフーコさんの瞳が見えたような気がした。これは念話のようなものなのか。


「私の目は特別なのよ。深層心理を解き明かすの」


「き、貴様……ま、まあいいでしょう。ここはダンジョンの外、僕の力は弱まっている。しかしこの恨みは高くつきますよ」


「ふふ、楽しみにしているわ。近々、私やあなたのいう同業者が貴方と共に配信をすることになるはずよ」


「それはとても楽しみですね、ふふふ」


  手元に力が湧いてきた。これがマテリアルスキルの力。これなら人格を取り戻せる。


  返せ、返せ、これは僕の人格だ!


「はあ、はあ、はあ」


「お帰りなさいレオ君」


「いったい何が起こったんですか」


「君の力がレオ様を取り押さえたのよ」


「僕が自分の力、人格を戻せた……」


これは信じられないことだ。本当に僕がレオ様の人格を抑えたのであろうか。


普段は闇の中で抵抗する気力も起きなかった。今日は光が見えた。これはスキルで自力が上がったからなのだろうか。


「何驚いた顔してるのよ。やっぱり私の見込みは間違ってなかったわ、あなたはレオ様に打ち勝つことができる」


「ミレイはこれを狙っていたのか」


「まだ思い描いたものとは違いけど、だいたいそうよ。後はダンジョンで同じことをしてもらいたい」


 僕にレオ様を打ち勝つ力を与える、ミレイはそれだけのためにこの力を渡したのだろうか。レオ様のファンであるから、全力で超える、それは分かるが、その執念から来る動機としては少し軽すぎる気がする。


 でも僕は二度と過ちを繰り返さないと誓ったんだ。この力があればレオ様を抑えられるかもしれない。


「任せてください!」


「安心するのはまだはやいわよ」


「どういうことですか?」


「マテリアルコードの発動条件はダンジョン内のみ、先ほどのレオ様の縛りは本来の力の数%しかない。今のあなたの様子ではおそらく厳しい戦いになるでしょうね」


「じゃあ、僕はどうすれば……」


「分かんなーい!」


「はあ?」


  フーコはいきなり声のトーンを変えて、指先を口にあてた。


「しかしレオ君、ミレイの自宅に上がり込むなんて随分とプレイボーイなんじゃないの」


「なっ、いきなりなんなんですか。そんなんじゃないですって!」


「……クク」


ミレイが口に手をあてて、笑いをこらえようとしていた。


「私ね、レオ君みたいな男の子は結構このみなのよ。今日はせっかくだから私と一緒に、ゲームでもしない」


「ゲーム?」


「大人のゲーム」


「はあ?」


 この光景は以前も体験したことがある。ミレイが僕を自宅に連れてきたときに足を近づけてきたことがあった。


 流石友達同士フーコも友達ってことか。


「か、帰ります! 僕を馬鹿にしないでくださいね!」


「えぇ、絶対楽しくなると思ったのに、ミレイもいるし今日は2人よ」


「余計だめですよ! 今日は失礼しました」


 僕は一目散にミレイの自宅をでた。







「はあ、はあ、散々な目にあった。僕は硬派なんだ。あんな誘惑には負けない」


「レオ君」


「うわああ」


 ミレイの声が背後から聞こえた。


 もしかして今回は、僕を外まで追い回す気か?


「これを受け取りなさい」


「これは?」


 振り返るとミレイが僕にカードを投げてきた。


「私のダンジョン配信のアイテムキーよ。特殊ロックにより私のスキルがないと開けないようになってる。レオ様は今のあなたからスキルを奪って行使できない。きっとあなたの役に立つはずだわ」


「ありがとう」


 なんだこれは、ミレイは前と違って真面目だったし、まだ一緒にいても大丈夫なんじゃないか。


「何、安心してんのよ。フーコが来るわよ」


「それはまずいから帰る」


 今のフーコさんにはさすがに会いたくなかった。


「まったく、あなたいつからそんなに大根役者になったの?」


「ふふふ、でも可愛かったじゃない」


「あまりにもいいタイミングで帰らせたものだわ。私たちもこれから次のプランに取り掛かる必要がある。彼にはそれを教えることはできないのよ」


「ええ、それにレオ君の質問の答えは彼自身が見つける必要がある。あれ以上の話会いは不要といったものよね」


「で? どうだった生でみたレオ様わ」


「ふふ、想定以上ね……私達でも厳しいかも」


「あなたが弱気になるなんて珍しいじゃない」


「まあね、じゃ準備に取り掛かりましょうか。私たちの次のステージ、ギルド・オブ・ヘブンへ行きましょう」


 

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