第6話 あの日のその後

やっぱりレオの勝ちかよ


あいつ強すぎだろw


ここまで来るとどこまで行くか見てみたいよな。


流石レオ様だわ。


「さあ、みなさん今宵も僕のショーを見てもらいありがとうございます。トップダンジョン攻略者のミレイさんですら僕に及びませんでした。これからもどんどん挑戦をお待ちしておりますので、引き続きよろしくお願いします。まあ、結果は全て今日のようになると思いますがね。アハハハハハ」







「はっ」


 いつもこれだ、ダンジョンの外に出た瞬間、中のことはうっすらとしか覚えていないけど、全てが終わっている。そしてスマホを見ると、報酬が振り込まれているのである。


 同接40000? これって最高記録じゃないか?


 それにマテリアルスキルって何?


「はあ、相変わらず随分と感じが変わるのね」


「ミレイ?」


 そうか、僕はミレイを連れてダンジョンに入ったんだ。あれからどうなったんだ?


「はあ、どうなったかって聞きたいんでしょ? もう惨敗。身ぐるみ全てはがされて、私はダンジョン配信者引退だわ」


「そんな!どうしてそんなことに」


 まさか引退にまで追い込むなんて思わなかった。レオ様に怒りを感じた。


「いいのよ、私はレオ様と戦えて満足しているから」


「くそっ、僕は許せない。こんなにひどいことをするもう一つの人格を」


「でも、勝利が手に入るわよ。こんなに素晴らしいことはないじゃない。あなたは選ばれし者だわ。その力を使って今後も高みにいくのが今からでもわかるわ」


「人を傷つけて得る勝利なんていらない……」


「はあ、いい? あなたが今、一番大切だと思っていることを頑張りなさい。これ以上は何も言わない。私は敗者だから」


「ミレイはこれからどこに」


「どうもしないわよ。ダンジョンとは関係ないことをするだけだわ。元々ダンジョンはサブで攻略してただけだし」


「そうですか。それはよかったです」


「それはよかったっていい方も気に障るわね」


「ごめん、でもミレイがもしダンジョンを主にしていたら、大切なものを奪っちゃったかもって」


「はあ、そもそも私からこの騒動を起こしたわけだし、こうなることも分かっていたわ。それにあなたじゃなくてレオ様がやったことだから、くれぐれも勘違いしない方がいいわよ」


「あ、うん」


「いい、レオ様の力はあなたのモノじゃない。それがあなたにとって致命的な欠陥となる日が来る。だから日々からレオとしての自分の力を大切にするべきだわ」


「どうしてそんなこと言ってくれるの?」


「これは私からの送り言葉よ。レオ様と戦わせてくれてありがとう。じゃあね」


「ミレイ……」


 そういうとミレイは僕の傍から離れていった。僕は少しだけ孤独感を感じた。








 自宅に帰ったら久しぶり喪失感を感じた。僕のせいで一人のダンジョン配信者が消えてしまった。


 こんなことは実は以前もあった。


 僕がまだこの能力を持たずに配信をしていた時のことである。力がもたらされたのは突然であった。


 そう、ユズとのダンジョン配信で起きたあの悪夢。


 今僕はあの時と同じ過ちを繰り返してしまった。この力がミレイを不幸にしてしまったのだ。


「……」


「ピンポーン」


 インターホン? 一体誰だろう?


「レオ君久しぶり!」


「ユズ!」


 ミレイと別れた僕の前に現れたのはユズだった。









「どうしてここに?」


「配信見てたよ。心配になっちゃって」


 ユズが僕の配信を……嘘だ。


 あの日以来僕はユズと喋っていないのに。


「どうして……僕はユズに酷いことをした。だから僕のことなんて嫌いになってしまったんじゃないの?」


「そういうわけじゃないのよ。でもちょっと、レオ君に会う心の準備が出来なかったの」


「……」


 僕はユズと話さなくなってから、とても寂しかった。学校ではあまり友達が多くないから。そんな僕にとってユズは数少ない話相手だった。


「私も悪かったと思ってるの。でもレオ君は私の手の届かない所にどんどん行ってしまって、私なんかが話しかけていいのかなって……」


「そんなわけないじゃないか……」


「ごめん……」


「……」


 数か月振りの会話だ。お互いどう接していいか分からないのか、沈黙がしばらく続いた。


「あの、あの後ユズはどうしてたの? ダンジョン配信はしてないの?」


「え? 私? うん、まあ」


 レオ様として僕は魔王スライムを撃破した。しかし、ダンジョンでユズは意識を失ってしまったのだ。


 ダンジョンを出ると自動回復が発生する。これによりユズは目を覚ました。しかし、僕を見るとおびえたようにその場を立ち去ったのだ。


 それから学校であっても、目を背けて僕とは喋ってくれなかった。


 だから僕は確信した、きっとユズに嫌われてしまったんだと。


「ユズにとって、僕は恐怖の対象になったんじゃないのか? レオ様の力に溺れて、傷つけてしまった。今更僕がユズと話す資格なんてないんだ」


「……そんなことないよ」


「ユズ?」


 ユズは僕の手を取ってきた。


「私ね、今回の配信を見てレオ君に謝りに来たの」


「何を……」


「私はあれから、レオ君が何を思っているのかなってずっと考えてた。レオ君はレオ様に好んでなっているのかなって、だからレオ様の配信を欠かさずみるようになったの」


「ユズは僕のことをずっと考えてくれてたのか……」


「レオ様は確かに凄かった。どんどん登録者も同接も増えて私の手の届かないところにレオ君が行ってしまったなって思ったの」


「……」


 確かに僕はユズのことを見ているようで見ていなかったのかもしれない。怖がられてるって先入観で、知らぬ間に自分からユズを遠ざけていたのだ。


「でも今回の配信で確信したんだ、レオ様になったレオ君はとても苦しそうだった。レオ君はレオ様になりたいわけじゃない、だからきっかけを作ってしまった私が謝らないとって……」


「ユズ……もしかして、きっかけってレイドボスのことか?」


「そう、レオ君がレオ様になるきっかけを与えてしまったのは私なの。だからレオ君を苦しませてしまったのは私のせい。この件は責任をもって私がどうにかする。レオ様からレオ君を私が解放するわ!」


「そんなこと、無理に決まってるじゃないか! ユズがレオ様の僕と戦ったらまた傷つけてしまうだろ? ミレイがそうだったように」


「分かってる。だからそんなことはしない。レオ君には教えないけど、既に方法は考えてるの」


「方法?」


「ごねんね、まだそれは教えられない。だから今回は謝罪だけ受け取って、ごめんなさい!」


「ユズ……」


 ユズが僕のことをそんなに考えてくれたことは嬉しかった。でもユズが僕をどうやってレオ様から解放するのだろうか。


「じゃあね」


「今度、一緒にダンジョン配信をしようよ」


「それは全てが終わってからね」


 そう言い残すとユズは僕の元から去っていった。

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