第3話 リア凸

「なんのことですか、僕はただの一般配信者ですよ」


 ダンジョンでは特殊装備や隠密スキルによって素性は隠されるため、これまで配信者として身バレしたことがなかったから、こういった経験は初めてである。


「私にはバレバレよ。あなたレオでしょ。登録者60万人の現在ダンジョン攻略最前線のトップ攻略勢の一人。綿密な隠密スキルを張り巡らせていたようだけどこの私の目はごまかせないわ!」


「本当なんのことだか分かりませんよ~!」


「とぼけるのもいい加減にしなさい!あなたのスマホをチェックさせてもらうわ!」


「え? ちょっ、やめてくださいよ!」


 いきなり、あらわれては僕のポケットにあるスマホをとりだそうとしてきた。


「いやっ」


 次の瞬間、僕はその女子の手を強烈に振り払った。


「やめてくださいっていってるじゃないですか」


「ふふ、本性を現したわね、やはりあなたがレオ」


「だったら、どうなんですか?」


「これをみなさい」


「うん? ユーザー名、月上ミレイ、あなたも配信者だったんですか。登録者は、ほう、5万人、そこそこ規模が大きいですね。まあ、僕にとったら、小物にすぎませんが……何?」


「気づいたみたいね」


「ほう、君も最新ダンジョン攻略者というわけですか」


「あなただけが最前線を走っているわけじゃないのよ!」


「面白い、それでこの僕に宣戦布告をしにきたんですか?」


「あなた言ってたでしょ? これからも最前線報酬は自分が貰うからせいぜい無駄な努力を頑張ってくださいって……その言葉、私があなたに浴びせることになるわ!」


「へえ、それは面白い発言ですね。楽しみにまっていま……ガタッ」


「え? ちょっと、レオ? どうしたの急に」


 しまった、会話に夢中で副作用を忘れてた。まずい意識が。










「……ん? ここは?」


「盛岡レオ君、君高校生だったのね!」


「あなたは、確か月上ミレイ」


「それはゲーム名、でも私の本名はミレイであってるわ、ここは私の自宅よ」


「はあ、どうして僕がミレイの自宅に… …うわああああ」


 気が付くと僕がミレイに膝枕されていた。


「レオ様お持ち帰り!」


「はあ?」


 ふと、パソコンをみると、僕の配信動画が移っていて、月上ミレイのコメントがあった。


 月上ミレイは僕のリスナーだったのだ。


「これはどういうことなんですか?」


 僕は即座にひざから離れると、ミレイに質問をしていた。


「どうってそれはこっちのセリフよ。あなたがいきなり倒れたから、私が連れ帰ってあげたのよ」


 そうか、僕はあの後意識を失ったのか。


「ありがとうございます」


「あら、随分大人しくなったわね。お礼に少し話を聞かせてもらえないかしら。見ての通り私はレオ様のファンなの」


「え、ええ、まあ助けてもらえたので、少しわ」


 流石にこの空気の中で断るというのは難しい。


「あなたは本当にレオ様なの? 今私が対面しているあなたはレオ様のそれとはまったくの別人なのよ」


「確かに僕はあなたがレオと呼ぶ人と同一人物です。でもそれは僕がダンジョン攻略の時に見せる人格で本当の姿ではありません。普段の僕は、普通の高校生です」


「でもダンジョンの外であなたに会ったときはレオ様の人格を見せたわ」


「あれは僕の超常的な力の一端です。ダンジョンの外ではほんの少ししか出すことはできない、運命を操る力、ダンジョン攻略をする中でいつの間にか僕が発現していた力です。でもこの力にはリスクが伴う、これはその反動です」


「じゃあ、あなたが倒れたのは私のせいじゃないの」


「それはそうと僕の学生証を返してくれませんか。話もここまでで、僕はそろそろ帰ります」


「待って、盛岡レオ君、あなたには興味はないけど、私はレオ様の方に用があるの。でもダンジョン外でレオ様と話すのは今回のような事態になる。だから今度一緒にダンジョン攻略をしない?」


「それは僕とコラボをするということですか」


「そうよ」


「お断りします」


「なんですって」


「登録者5万のあなたと登録者60万の僕がコラボをするメリットはありません。それに僕は他人とコラボをするようなキャラではないのはあなたが一番知っていますよね」


「……ふん、こっちの人格なら容易く約束できると思ったけど、案外甘い人物ではなかったということね」


「それじゃあ、僕は帰りますので」


「待ちなさいよ!」


「なっ」


 ミレイは僕の進路方向の壁に手をあてると、スカートや足をちらつかせてきた。


「レオ君は案外こういうのが好きだったりするんじゃないの」


「わ、わわわ、ふざけないでください! 帰ります」


「ちょっと!」


 僕はミレイから真っ先に離れると、彼女の自宅を飛び出していった。

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