第14話 意外な共通点

あー言えばこう言う

村岡蒼介を黙らせられるくらい

パンチが効いたのか

またいらんこと言うてしもたらしい。


「すまん……知らんかったさかい」


「ええよ。別にわざわざ人に言うことちゃうし」


「大変やったんやな……その、お前も……」


「別に大変とちゃう。誰かていつかは皆、死ぬわけやし。お姉ちゃんは早かったいうだけ」


「それは、そうやけど……」


「もうええて。ほな、さいなら!」


あの人も人間の心があったらしく

人並みに同情できるらしい。

そやけど泣き言も言うてられん。

折れたらしまいや。


余呉に戻ってくると

まだお爺ちゃんもお婆ちゃんも起きとって、

お父ちゃんもお母ちゃんも

帰らんと待ち構えていた。


「何のつもり?あの人、隣のバードセンターの職員やで?」


父が言う

「知っとるわ!今日な、鳥の解説してもろたさかい!」


母が言う

「ほやほや!ええ話を聞かせてもろた!」


爺ちゃん婆ちゃんまで

「勉強になった」と口を揃える。


「何を期待してんか知らんけど、頼むさかい、いらんことせんで?どっちか言うとな、あの人とは犬猿の仲なんや。初日から大喧嘩したさかい」


「大喧嘩!?」

「そやけど、仲よう話とったやろ?」

「ほやほや。見たでこの前。たまたまやけど!」

「さっきも仲悪うは見えんかったなぁ」

「年はちょっといっとるけど、男は30過ぎとるくらいがちょうどええ!」


「知らんて。それにあの人、だいぶ変わっとる人や」


そう言い聞かせたものの

そんなことない、ええ人やと

大人達はえらい村岡さんのことを気に入っていた。


そやけど何でやろ。

年頃になったら恋愛して結婚して子供を産んで、

それが普通っちゅう考えがわからん。

そらぁ、ええ人に出会ったんなら話は別やけど。


休みの日まで誰かに気を遣うとか

他人と一緒に暮らすなんて

私には考えられんことや。


「もう疲れたさかい、休むわ」


まだ帰らない両親を無視して部屋に入った。

子供の頃から私は

どこか他の人とは違うと感じていた。


同級生らが教室で

昨日見たテレビや芸能人の話題で盛り上がっていても、

何がおもろいんか理解できんかった。


恋愛や結婚に憧れもない。

そやさかい20代後半になった今、

周りがどんどん結婚していくことに

羨ましさも感じないし

ましてや焦りなどない。


したい人がすればええ。

そんくらいの気持ちや。


結婚で思い出した。

あの子、元気かな。


友達の少ない私が

唯一、大学で仲ようなった一ノ瀬侑芽いちのせゆめ

確か富山で就職して結婚して、

子供も生まれたてハガキきとったな。


色々あって、

しばらく連絡もとっていなかった。

久しぶりに連絡してみるか。


『久しぶり 元気?』


『元気だよ!久しぶりだね』


何度かメッセージのやり取りをし、

今は子育てをしながら仕事を続けていると言う。

大変やなぁと思っていると

電話がかかってきた。


「穂乃果から連絡くるとは思わなかった!」


「滋賀に戻ってきたさかい、前より近なったな思うて」


「会いたいね、久しぶりに」


同年代の中では落ち着いていた侑芽は、

地元を離れて富山で頑張っている。


道の駅で働きだしたことや

マルシェでお客さんがぎょうさんきた話をすると、

彼女も似たようなことをしていて

最初は大変だったと理解してくれた。


子供は旦那さんがあやしてくれているらしいけど、

途中でぐずりだして

あまり長くは話せなかった。


また連絡すると切ろうとすると

侑芽は大丈夫と言いながらこう続けた。


「穂乃果の地元って滋賀県のどこだっけ?」


「長浜。湖北地方いうて福井寄りや」


「へぇ、行ってみたいな〜」


「子供おるし大変やろうけど、いつでも遊びに来てええで?」


「ほんと!?じゃあ、今度行こうかな。福井まで新幹線つながったもんね」


「車あるなら高速でも来れるで。まあ、私がそっち行った方がええやろ」


「それでもいいけど、うちの旦那さんも、そっちに知り合いいるから行きたいんだって」


「知り合い?どこの人?」


「なんだっけ。ねぇわたるさん、滋賀のどこだっけ?お友達がいるの」


侑芽が旦那さんに尋ねると

電話越しに男性の低い声が聞こえてきた。


「長浜や。琵琶湖バードセンターっちゅうとこで働いとる村岡蒼介やちゃ」


「……!」


「聞こえた?長浜だって。今調べたらそのバードセンターって、道の駅の隣にあるみたいだけど、もしかして穂乃果が働いてる道の駅?」


まさかの展開に驚きすぎて

色々突っ込みどころ満載やけど、

村岡蒼介あいつ……友達おったんか。


あの変人と仲ようできるって、たいがいやぞ。

てことは侑芽の旦那さんも

相当な変人なんかな……


「穂乃果?聞いてる?」


「あ、うん。そこやわ、私がおるの」


「え!?そうなの?すごい偶然!」


侑芽は純粋で何事にも一生懸命な人で、

遊びよりも自分のやりたいことに向かって

努力を積み重ねている人だった。


大学でもたまにしか会わんかったけど

1人で勉強してるとこは何べんも見てきたし、

全然知らん土地で就職した時も

根性あるなぁて感心もしていた。


そんな侑芽の旦那さんが

あの村岡蒼介と友達て……


「じゃあ、その村岡さんって人、知ってる?」


「知らん、そんな変人。知らんで」


「ん?変人?……やっぱり知ってるの?」


「あのな、来るなら道の駅だけでええさかい。わかった?」


「え、まあいいや。とりあえず行く日決まったらまた連絡する!」


「楽しみにしてるわ」


はぁ……なんや今日は

情報量が多すぎて疲れた。

そやけど東京におった時よりはマシ。

朝がきてもしんどない。


大きいとこの方が

業務がマニュアル化されていて

楽なことも多いけど、

今のとこは少人数で色々任せてもらえるし、

下からの声が上に届きやすい。


「穂乃果ー、トンマ(トマト)いるか?」


「うん、一切れもらおか」


「一切れ言わんと、ぎょうさん食べや〜」


この辺は山からの伏流水のおかげで

至る所で水が湧き出し

それを各家庭に取り入れて

野菜洗ったり飲み物を冷やしたりして

暮らしに役立てたりしている。


この家にも勝手口かってぐちを出たところに

湧き水を引いたパイプが通っていて、

大きなタライに水を張っている。


今朝は近くの畑で採れた

トマトを冷やしていたらしい。

今日の朝ご飯は半熟の目玉焼きに千切りキャベツ、

そこにトマトのスライスが2切れ添えられていた。

昨夜の残りのエビフライまである。


「こんなに食べれんて」


「いいや、食べんとあかん。朝ご飯で一日が決まるんやで?」


「ほやほや。しっかり食べや!」


お爺ちゃんはトマトのことをトンマと言う。

方言と思っていたら

お爺ちゃん以外は皆んなトマトと言っているから、

また適当に言うてるんやなと受け流している。


昔から独自なワードセンスを持つお爺ちゃんは

トンマ美味いか?を連発しながら


「わしは村岡さんにもうちのトンマ食べてほしいわ」


「もうええて」


「持ってくか?村岡さんに」


「そやからいらんて!」


断っても耳の遠い2人には聞こえておらず

袋に入れて渡してくる。


本当に聞こえとらんのか

わざとなんかわからん時があるけど、

今は補聴器も外しとるし、

ほんまに聞こえてないんかもしれん。


いらんて言うても聞かんから、

とりあえず受け取って早々に食べ終えた。


「行ってきます!」


「なんや、もう行くんか。気いつけるんやで〜」


「村岡さんに宜しゅうな」


「……っ!」


イライラしながら車を出したけど、

道端のの立て看板を見て

心を落ち着かせる。


安全運転や。車も人生も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る