【4月】ワガハイは猫である 第5話
「ひんっ……」
タマキはソファにお尻を庇いながら座りなおした。ワガハイにいつもするように軽くタッピングしたつもりであるが、初体験のタマキには刺激が強すぎたかもしれない。
「だ、大丈夫。ワガハイちゃんから、あなたは一流の猫コマシ師って聞いていたし……」
なんと謝るべきか困っているあなたをタマキはフォローして言った。いや、これはフォローになっているのだろうか……。
微妙な表情で姿勢を正すあなたを脇目に、ローテーブルの配置を戻して、タマキがお茶を入れ直してくれる。
「びっくりさせちゃったかな……?」
タマキは熱いお茶を啜りながら言う。
「私、霊媒体質っていうのかな。こうやって動物が憑いちゃうことがあって……」
タマキは黒文字を器用に使って道明寺を切り分ける。
「その子の最後の願いを叶えてるの……」
その眼には今朝、桜の花びらに向けていたのと同じ優しさがある。
「気が向いたら、また、手伝ってくれると、嬉しいな……」
霊媒体質の生徒会長ははにかむように笑って言った。どうして自分に? そんな表情をしていたのだろう。タマキは立ち上がって続ける。
「だって、あなた、動物に好かれるって……」
そこまで言うとタマキは内緒話をするようにあなたの耳に唇を寄せる。
「ワガハイちゃんが、教えてくれた……から……」
眼を白黒させるあなたにタマキは微笑みかける。
「それじゃ、よろしくね」
「いいお茶と」
「お茶菓子」
「用意して待ってる……からね……」
◆
これが、あなたと
あなたが体験する、切なく、甘い、人と動物の葬送の物語の始まり。
◆◆◆
終幕 【4月】『ワガハイは猫である』
次回 【5月】『老犬と海』
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