【4月】ワガハイは猫である 第3話

「私を撫でて、逝かせてくれる……?」


 (ざぁっ)


 桜吹雪が生徒会室に吹き込んできたかのような錯覚。


(コチコチコチと秒針の動く音)


 きっちり3秒、生徒会室の時間が止まる。


「まぁ、私というか……この子……なんだけど……」


 タマキが口の中で小さくなにかを唱えた。とたんにタマキの頭上にネコミミが生える。欠けた鼠色のふわふわ耳。ワガハイの耳だ。


「そう……この猫」


 ローテーブルに置かれた写真にはあなたが世話していた地域猫のワガハイ。


「ワガハイちゃんが……あなたに撫でてほしいって……」


 タマキはローテーブルを乗り越えて、あなたの側のソファに座りなおす。そのお尻にはワガハイと同じつぶれた短い猫尻尾。


 にゃふと、あなたに吐息を吹きかけるその顔はタマキであるが、その雰囲気には猫らしい気まぐれさと野良らしい野性味が感じられた。


「そう……私に今……ワガハイちゃんが取り憑いてる……」


 信じて、くれる? とあなたの胸元から見上げるタマキの頭には見間違えようもなくワガハイの欠けたネコミミが生えていて、あなたは困惑しつつも納得する。


「大丈夫。あなたに、害はない……」


 タマキはローテーブルをそっと脇へと避けた。これならソファの上でしてもテーブルの上のお茶をひっくり返す粗相はしなくて済むだろう。


「でも、ここに、ずっといると……ワガハイちゃんの魂が迷ってしまう……」


 タマキが自分の胸を指して言う。その首筋はまだ肌寒い春先だというのにしっとりと汗ばんでいた。


「だから、手伝ってくれるかな……?」


 とろんとした目つきでタマキが首をかしげる。頭上ではふわふわのネコミミが揺れる。


「ワガハイちゃんが満足したら、あるべきところに行ってくれるはずだから……」


 あなたの胸元に額を押し付けるタマキ。ワガハイがご飯をねだる姿をあなたは幻視した。


「何をすればいいかって?」


 タマキはソファにその身を預ける。ローファーがつま先から落ちて床に転がる。


「撫でてあげて?」


「あなたの……好きに……」


 タマキはあなたの腹に頭を預け、見上げながら言う。白い喉が無防備にさらされる。


「あなたに撫でてほしい。それがワガハイちゃんの最後の願いだから……」

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