【4月】ワガハイは猫である 第2話

(終業のチャイムの音)


(ざわめき)


(ノックの音×3)


「うん、どうぞ……」


(引き戸を開く音)


 あなたは放課後、他の上級生たちに場所を聞きながら、生徒会室にたどり着いた。


「あなた、ね……。来てくれてうれしい」


 タマキは目を通していた書類を置いて、あなたを出迎えた。机には「生徒会長 神無木かんなぎたまき」と書かれたネームプレートが置かれている。


「うん、生徒会長……してる……」


「座って……。お茶、入れる……から……」


 タマキはあなたにソファを勧めると、奥の戸棚から茶葉を取り出した。


(カチャカチャというティーセットが触れ合う音)


「熱いの、好き? ぬるめがいい?」


(コポコポと湯の沸く音)


「そう……。少し温めに入れる……ね」


(湯をポットに戻して冷ます音)

 

 タマキは手際よく湯呑にお茶を淹れると茶布団を敷いてあなたの目の前に置いた。


 もう一つの湯呑には熱めにお茶を入れてあなたの正面の席に置く。どうやらそこが彼女の席らしい。


「他の人には、内緒……」


 タマキは声をひそめ、目配せをすると、机の中から関西風の桜餅、道明寺どうみょうじを取り出した。小皿に一つずつのせ、黒文字くろもじを添えると、あなたと彼女の席に設える。


 そうして、お茶の準備ができると、タマキはあなたの正面のソファにそっと腰かけた。


「どうぞ……」


 タマキはあなたにお茶を勧めてくる。あなたはお茶をすすった。


「熱っ……ああ……しまった……失礼するね……」


 タマキはお茶が思ったより熱かったらしい。ふうふうと吹いている。


「ふー、ふー、熱っ……」


「ふー、ふー、熱っ……」


「ふー、ふー、熱っ……」


 なかなか冷めないらしい……。


 気まずい沈黙に気付いたのか。タマキはお茶を一旦置く。

 

 タマキは、生徒会室に他に誰もいないのを再度確認すると、居住まいを正した。


「今日、出会ってこんなことを頼むのも変と思われるかもしれない……」


「でも、落ち着いて、私のお願い。聞いてくれるかな……」


 芽吹きの季節の陽光が舞い散る桜の花びらで桃色に染まり、生徒会室を柔らかく照らす。


 タマキはソファから身を乗り出すと、あなたの耳元でささやいた。


「私を撫でて、逝かせてくれる……?」

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