2024/10/16

余は汽車の猛烈に、見界みさかいなく、凡ての人を貨物同様に心得て走る様を見る度に、客車のうちに閉じ籠められたる個人と、個人の個性に寸毫の注意をだに払わざるこの鉄車とを比較して、――あぶない、あぶない。気を付けねばあぶないと思う。現代の文明はこのあぶないで鼻を衝かれる位充満している。


(夏目漱石)


戦中に開発された殲滅の技術と手法が、戦後――日本だけじゃないですよ――経済成長のもととなったんです……それはね、「平たくならしていく」っていうところで一致するんですよ。近代の経済主義でも、市場は平たく均した方が効率がいいですよね、大量販売のためには。市場を平たく均すっていうのは、人間も平たく均すっていうことで……個性って言葉は、僕はあまり使いたくない。個性ってのは業みたいなものですから。ただ、個別性を失わせていった。個性、個性と唱えれば唱えるほど、個別性への意識が萎えていく。


(古井由吉)


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 前者は『草枕』最終盤の一節で、後者はとある番組における氏の発言から抜粋した。

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