2024/10/26

「便利さの裏で……」などという、便利さに警鐘を鳴らしつつもその恩恵に“留保する”ような論調に出くわすと、その論者は人間というものについて熟考したことがないのではないかと訝ってしまう。確かに一部の懐古趣味の者を例外とすれば、不便さを有難がるような人間はそういないであろう。けれども生活の不便を各々の工夫によって処するところに生き甲斐というものが生じるのであって、不便――これは「」と置き換えてもよい――を予め取り除いてしまうことは、生き甲斐の略取と呼んで差し支えまい。解の知れたパズルに子どもが本気にならないのと同じ道理で、一方的に与えられる便利さは、人間から活力を奪うのである。


~~~


住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。


(夏目漱石)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る