第34話 新世界へのプロローグ 6
バルバリの国で一万年の間、唯一変わらなかったもの。それはエスの存在であるが、存在することに変化はなくとも、その働きには変化があった。
基本的にエスはバルバリの道標であり、在り方だ。新世界の設計者と言ってもいい。マシナの働きを残しつつ自然を再生させる。
そのために世界中のマシナを通じて目を配っている。特にオルビスとの繋がりは太い。
それは、空に浮かぶ船から見ても同じことだった。
特にオルビスに繋がるマシナの信号、つまりバルバリの意識は強く捉えられていた。逆も同じだ。船からの信号をオルビスに繋がるバルバリの民はそれと知らずに受け取っていた。
空に浮かぶ船は寿命を迎えようとしていた。
惑星ムテルと恒星フィクスム。そのふたつの星の力的中心に位置し、最小限の力で空に浮かんでいるとはいえ、飛び立って一万年。あらゆるところに痛みが生じている。
繰り返し循環させてきた船内の水や空気の質も危うい。まずその影響を受けるのは作物だ。
アンテの人口は厳しく管理されていたが、今の人口では食物が足りなくなりそうだった。
「ムテルに降りるべきでは」
そういう意見は三百年も前から出始めていた。
だが、アリーチェ帝国の惨状はマシナに記録されている。
「再び眠りについた方が良いのでは?」
その意見には反対するものが多かった。もう時間稼ぎしても意味はない。ムテル以外の新しい住処を探すのも、この船の状態では無理だ。やはりアンテが生き残る道はひとつしかなかった。
「ムテルにいる人間もどきは絶滅させよう」
そういう意見も少なくない。怯えているのだ。
空から見ている限り、バルバリも、ノヴィネスも、僅かにいるスキアボスも、害があるようには見えないという意見もある。
「絶滅させることはない。大丈夫、生きていける。共生できる」
だが、アンテはアンテ同士でも殺し合い、自分のごく身近な仲間だけを大切にしてきた。そういう進化の道を辿ってきた。
「殺すのが楽だ。それだけの準備をして降りよう」
準備。確かに準備が必要だった。なんといっても空に住むアンテの数は少ない。殺戮の道具として使えるマシナも少ない。
「生きたい。でも、ムテルの人たちも生きてほしい」
そう願う者は僅かであった。だがその者の想いは強く、ひとりのバルバリの民に届いていた。
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