第33話 新世界へのプロローグ 5
辺境の地、シェニム。
アリーチェ帝国とディゾラ海を挟んでムテルの反対側に位置した小国は、元々アンテの数が少なかった。つまりはマシナの数も少なく、穢れもほとんどなかった。
ファンデルは眠りの地としてそのシェニムを選んでいた。
海に囲まれたエクシートゥムの岬。その根元に地中深くまで続く風穴がある。フィクスムの光も僅かしか届かない穴だ。
その僅かに届くフィクスムの光も、岬の中央に植えられた大樹が影を作って、風穴に光を入れなくなった。そうさせたのは、ファンデル自身だ。
空高くまで伸びたシェニムの樹。その先々には蓄光のフォッシリアがちりばめられた。大樹が植えられたことでフィクスムの光を遮られた付近の植物や、生物たちの繁栄を助けるためだ。
そのフィクスムの光に誘われ、シェニムには聖獣が集まるようになった。
海の聖獣ポッシオ以外は、幼体期は必ずシェニムで過ごす。聖獣になってからも、基本的に住処はシェニム周辺から離れることもない。それは、ムテルから多くの穢れが浄化されても変わらなかった。アンテたちの争いに巻き込まれたことに懲りているのだ。
聖獣サーティスと、聖獣ジャヴァルは、ファンデルによってそれぞれスキアボスと、ノス・クオッドと呼ばれる生物に姿を変えさせられた。アンテが滅びて五千年が過ぎた現在、この地にいるスキアボスと、ノス・クオッドによって作られたノヴィネスは、聖獣に手を出すことはなかった。
聖獣たちにとっては平和で穏やかな年月が流れていた。
ノヴィネスによる穢れの浄化は、シェニム、大陸の中心、ヴァーブラ地方ではほぼ完了していた。だが、浄化作業はディシビア地方で足踏みしていた。精霊が残る場所だ。海峡を挟んでさらに最果ての地には、最も穢れが残るフィリヘイトナ連邦のあった大陸が残されていた。
「この者たちはいったいなんなのだ?」
精霊が初めてノヴィネスを見たときには、その周辺を漂って警戒した。空のアンテに繋がれると知っていれば彼らに答えを求めたかもしれない。しかし空のアンテがそうであるように、精霊たちもまた、長い年月からその記憶を曖昧にしていた。
警戒する精霊とは逆に、ノヴィネスたちは幻想的な光景に目を奪われていた。淡い光を放ち、ふわふわと浮かぶ球体。光は周りの環境に色を変え、僅かな風でも微妙に表面を波打たせていた。
お互いがお互いに、当然のようその正体を探った。
「身体のほとんどは元素からできているのか。しかし、その働きは我々アンテとさほど変わりがないな。これもファンデルが創ったのか?」
精霊がノヴィネスを深く調べるうちに、共鳴した数体の精霊が、ノヴィネスを操れるようになった。だが、ノヴィネスに潜った精霊は、寿命を得てしまう。しかもノヴィネスにとっては高すぎる精霊のエネルギー消費に耐えられず、その寿命は極端に短くなった。さらに、一度ノヴィネスと同化すると、二度と自分の力で精霊に戻ることができない。
それでもノヴィネスと接触したことで、その狙いが穢れの浄化にあると分かった精霊たちは、ノヴィネスに干渉することを辞めた。
そして一度精霊に潜られたノヴィネスから発生した個体と、その先々の子孫になるノヴィネスは、精霊のマシナに繋がることができるようになっていた。彼らは自らを「精霊使い」と呼び、精霊はディシビアの守護者だと認識した。それは当然間違った認識だったのだが、精霊となったアンテの精神が、寿命で死に絶えることを拒んだ意識がノヴィネスにそう勘違いさせたのだ。
以降、ノヴィネスは精霊や穢れの残る最果ての地へ進むことを躊躇し始め、やがて最後まで役目を認識していたノヴィネスたちも、マシナをフォッシリアに埋め込み、穢れを元素へ還元させる技術を徐々に忘れていった。
そうしてノヴィネスたちは浄化された世界中に散り、フォッシリアの力を使いながら、ささやかな文明の下で暮らしを続けていった。
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