第30話 新世界へのプロローグ 2
今は戦うべき時ではない。実力行使を含めた議論の結果、空へと生きる場所を移したアンテたちは全てを先送りにする決定を下した。リーダー不在のままそれぞれの役割を果たし、多くのアンテは、すぐに永い眠りへとついた。
二千八百人の生き残りが安定して過ごせるようになるには、帝都ペクトゥスで運用されていたマシナ以上に信頼度の高い働きが要求される。特に空気と水を浄化し循環させるマシナは重要だ。それらのマシナの働きが軌道に乗るまでの間、命を繋ぐ時間を稼ぐ必要があった。
その時に参考になったのは、ムテルに残ったアンテたちが取った方法だ。
船内のアンテたちは、数名の技術者を残して器となる身体と精神を切り離し、器を腐らぬよう保存させ、精神は深く眠らせた。
その時ムテルではアンテを殲滅させたファンデルもまた、未来に向けて眠ろうとしていた。
ファンデルを含むマシナの駆動力の源は、アンテの生活から出る老廃物の集合体だった。マシナが作り出すことのできないものだ。
ファンデルは自身の復活後、新しいエネルギーとしてフィクスムに目を付けた。そして、フィクスムの光で活動する聖獣に注目した。だが、ファンデルに残された時間は長くはない。
最低限のエネルギーで動けるよう、自らの機能をいくつかコピーして分割した後に、本体は新しいエネルギーが安定して使えるようになるまで眠らせることにした。
ファンデルはまだ動くことができるマシナに命じ、聖獣の細胞と自らの残滓を融合し、新たな有機生命体を創り出した。
最初に創られたのが後に欠けた者と呼ばれるスキアボスだ。そのあと、聖獣の特徴を抑えたノス・クオッドが創られた。
ノス・クオッドもまたファンデルにとっては完全ではなかったが、ファンデルは力尽きる寸前だった。
ファンデルは眠りにつく前の最後の仕事として、ノス・クオッドたちに自身の知識と知恵を与えた。
マシナがアンテの生活から出る老廃物をエネルギーにした仕組みを応用し、大気に漂う穢れを元素に還元することで、マシナの機能、機憶を働かせる技術を伝えると、ファンデルはノス・クオッドにムテルの未来を託し眠りについた。
しかし、ファンデルがそう感じたようにノス・クオッドたちは完全ではない。ファンデルの残滓と成獣から創られたノス・クオッドは、聖獣と同じくフィクスムの光を主なエネルギー源とした。
ノス・クオッドだけでなく、自然活動、ムテルの星としての活動にはフィクスムのエネルギーは不可欠だ。ノス・クオッドはそのフィクスムの光を取り戻すことから取り掛からなければならなかったが、フィクスムの光の乏しいムテルで自らが長く活動するのは難しい。
そこで、ノス・クオッドはファンデルから受け継いだ力で、僅かに漂う元素と自身の体組織を原料にまた別の有機生命体を創り出した。それがノヴィネスだ。
ノヴィネスはマシナに頼り切る前のアンテたちのように、他の有機物を経口摂取することで活動するためのエネルギーを得ていた。
そのノヴィネスたちにファンデルから授かった穢れを元素に還元する方法を伝えると、穢れと共に残されたマシナの機能は太古の機憶の化石、フォッシリアとして穢れを圧縮した石に姿を変え、世界はゆっくりと浄化されていった。
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