第22話 エスと新たな脅威 5

 ブロアヒンメル王国からアリーチェ・デザータへ行くには、広大なディゾラ海を斜めに渡らねばならない。途中に小さな島々もあるが、基本的にはフィクスムが空の一番高い位置に昇る頃まで飛び続けることになる。

 飛ぶのはフォッシリアの力だが、気力は使う。多くのフォッシリアの力は意識して繋がっていなければ発揮されない。ヴォラもそのひとつで、もしも飛んでいる最中に寝てしまえばあらぬ方向に飛んでしまうか、力が完全に停止して地面に叩きつけられる。

 さらに、組合の検査によって力を発揮できる期間がある程度推測できるとはいえ、砕けてしまう瞬間はその時にならないとわからない。一般的に予備のヴォラを持って飛ぶのが常識だが、瞬時に力を発揮させるフォッシリアを切り替えるには一定の修練がいる。

 ディゾラ海の上、仮にフォッシリアが割れても次のヴォラを使える高度を保って飛ぶ中、イーツは眠気覚ましを兼ねてそのフォッシリアについての考えをひとり声に出して巡らせていた。

「長らくフォッシリアはノス・クオッドの英知が封じ込まれていると信じられていた。だが実際はノス・クオッドよりも前、アンテが創り出したマシナの力を、ノヴィネスたちを使って穢れと共に封じさせたものだ。そして多くのフォッシリアは、アリーチェ・デザータで産出される。マシナがアリーチェ・デザータ、当時のアリーチェ帝国に多く居たことと同時に、穢れが多くあったからに違いない」

 イーツは当然のことだと言った感じでそう言い切った。

「そして、フォッシリアは使うためではなく、作ることそのものが目的だった。だからこそ、使う者が居るはずもないディゾラ海の底であっても、コムーニャとはいえ多くのフォッシリアが漁師に見つけられる」

 イーツは考えを口にしながら、自ら矛盾点を見つけては首を振っている。

「穢れを浄化する目的がフォッシリアを作ることで完結するのならば、ノス・クオッドやノヴィネスたちがフォッシリアの力に繋がり、使うことができるはずはないか。いや、生き残ることに固執したバルバリの民が、力を使えるように改良したのかもしれんな」

 イーツは生きている間に得ていたフォッシリアとオルビスについての知識を、昨日一日でことごとく塗り替えられた。

「その結果、フォッシリアはその力を使うことで石の外にある穢れも取り込み、浄化できるようになったのだろう。七十年前、ブロアヒンメル王国が穢れに覆われた時、三年後にヴァーブラ公国が城壁を築くと同時に、穢れも消えていた。あの城壁を作るために使った大量のフォッシリアの力。それが穢れを吸収していた」

 イーツは自分の考えと歴史を振り返り、しばらくして「うむ」と頷いた。

「フィリヘイトナでフォッシリアを使えばあの地の穢れも浄化できるだろうが、それよりも新たにフォッシリアを創り出せぬものだろうか。その知識もエスから受け取れれば良いのだろうが。やはりまずはエスの正体をエスに気付かれず知ることが先決か」

「まだあの穢れを材料に、フォッシリアが作れるんだね。もしかしたら、その方法もエスなら知っているかも」

 イーツがそう口にすると、山頂を雲に隠したチェア山脈が迫ってきていた。

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