第11話 ファンデルとアンテ 3
精霊の高地と呼ばれる人の住まないディシビアは、地図の右上に実際の面積より小さく描かれている。現在人の生活する端の地であるフィリヘイトナと、狭い海峡を挟んでいるだけのこの地であるが、訪れる人間はほとんどいない。
スタークたちがシェニムでユーランと話していた頃、少しずつファンデルに支配されていったバシリアスは、フィリヘイトナに入って自らの身体の変化に戸惑っていた。
精霊と呼ばれるものの正体は、元素と強く結びついたまま漂うフォッシリアの記憶であると世間一般にはそう信じられている。いわゆる「穢れ」に近い存在としてこの国に漂うと。
だがそれは精霊に影響を受けないノヴィネスたちの考えであって、正しくはない。精霊とはマシナとの戦いに敗れた人間、アンテの亡骸。その精神の集合体だ。
精霊は、聖獣から創られたノス・クオッド、つまりはバルバリの民やノヴィネスには元来無益であり無害だ。
その精霊がバシリアスに侵入し、身体の隅々を検分するかのように駆け巡っていた。
「この、重さはなんだ?」
身体が動かなくなったわけではない。だが、明らかに反応がおかしい。自分の身体とは思えないほど、重い。バシリアスはファンデルの抵抗であろうと考えていた。
オルビスとはなんであるのか。
バシリアスが導いた答えは、ファンデルの器となるための意思を示す石。ファンデルとノス・クオッドを繋ぐ、やがて復活の日のための器を確保する鍵だ。
この世に八個存在するオルビスのうちのひとつ。シェニムで秘かに受け継がれていた支配のオルビスがバシリアスの母の曾祖母に渡った時には、既にその機能の大半が停止されていた。
以降、巫女の手から手へ受け継がれてきた支配のオルビス。二年前、バシリアスはその支配の力が失われつつある事態こそが、時が来たことを知らせるものであると結論を出した。ファンデルを蘇らせる時がきたのだ。奴らの時間稼ぎもこれまでと。
「あの議長め。こうなるとわかっていてディシビアを渡らせ、フィリヘイトナへ向かわせようとしたか」
バシリアスはそう言って
僅かな違和感から始まった異変。その異変が徐々にバシリアスの身体を蝕んでいた。
――抜け落ちる。支配のオルビスからバシリアスの意識が剥離していくように感じた彼は、とっさに頭を押さえた。
すると、彼の首から頭がすっぽりと抜け、二、三歩つんのめると、足首も崩れてその場に倒れた。地面に倒れこんだ拍子に、バシリアスの頭はころりと転がった。視界に自分の無様な身体が映る。
「間に合わなかった、のか」
オルビスが力を失いすぎていたのか。ファンデルの聖躯とひとつになった時に感じた、尽きることなく湧き上がるような力はどこにもない。
痛みもなくただただ失われていく力に、バシリアスは目を閉じた。
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