第4話 ミディエと検石主の力 4
宿に帰ると食事は既にスタークの部屋に用意されていた。急に用意させたからか、宿を出る前にキャスティムが運んでいた料理と比べたら幾分見劣りがする。それでもヌイーラでチャウムが用意してくれた食事に負けない豪華さだ。
「世界中の食べ物が集まっているって感じね」
ミディエの感想の通り、交易都市のヴァーブラには世界中の食物が集まってくる。それに加えて豊かな森に囲まれたヴァーブラで採れる野生の野菜や果物、野生の鳥獣の肉は、自然のエネルギーを蓄えているのが噛むごとに分かる。
「スタークはオルビスに繋がってすぐこの国に?」
「ああ。親父に連れられるままにな」
「そっかぁ。バルバリの国を出たのは私と同じくらいの時期になるのかな?」
ミディエは、食事の手を止めずに続けて質問をした。スタークは口の中の物を飲み込み、一呼吸おき、さらに水をひと口飲んで話した。
「いや、ミディエが先だな。私を一体何歳だと思っている?」
スタークはそう言って苦笑した。ミディエは両親の記憶も曖昧なほどに幼い時にオルビスに繋がっている。
「えっと、スタークは十八歳の時に繋がったって言ってたよね。そして、ヴァーブラ公国で八年でしょ。その後バシリアスを追ってヴァーブラ公国を出て。あ、まだ三十歳前なんだ」
指折り数えて答えを出したミディエを見て、スタークは逆に聞いた。
「同じくらいの時期とすると、ミディエは今十四、五歳か」
「失礼な。二十歳よ」
頬を膨らませていたミディエが、しばらくその顔をして胸に溜まった息を吐きだした後、食事の手を止めないスタークを少し下からのぞき込んでいる。
「私って子供っぽい?」
スタークがようやく手を止め、どう答えたものか考えていると言わんばかりに頭を掻いて口を開いた。
「まあ時々、な」
スタークにとってはかなりミディエの気持ちに譲歩して出した答えだったが、ミディエには不服だったようだ。ミディエも反撃に出た。
「スタークだって子供っぽい時もあるけどね」
ミディエがそう言った直後、二人とも同じ場面を思い出したのか揃って嘆息した。
「それにしたって、お父様はどうしてあんな」
「さっき話しただろう。肩の怪我以降、な」
食事を終えたスタークは赤く熟れた果実を手に取り立ち上がった。スタークが言うその理由は、ヴェールというよりもスタークの態度を変えるきっかけになったようにミディエは思えた。しかし、家族とは他人には入り込めない事情を持つものだ。これまでのミディエならば、そのことに対して口出しはしなかったかもしれない。
「でももうそれから何年も経っているんでしょう? よく話してみたら」
「ミディエもさっき見ただろう。あの親父の態度を。私の話を聞こうともしない。さあ、親父のことはもう話しても無駄だ。少し早いが休むぞ。明日はザックワーズ公を訪ねる前に、バシリアスが住んでいたという家を見てみる。何かファンデルについても分かるかもしれん」
「家? 宮殿に住んでたんじゃないの?」
ミディエは幼い頃、城の近くに建つ宮殿でやはり幼かったバシリアスに会った記憶が僅かにある。そのミディエが首を傾げて言った。
「ザックワーズ公の後妻に嫌われたのさ。貴族には色々あるのだろう。ゆっくり休めるのは今日が最後かもしれん。しっかり身体を休めておけよ」
そう言いながら頭の動きでミディエに部屋を去るよう促した。
ミディエは部屋から出ると閉じた扉をしばらく眺めていた。
湖の前で語った自分の言葉を思い返している。ミディエは生きるということに、これほどのエネルギーと覚悟を要するとは思っていなかった。
ファンデルによって創られたノス・クオッドの末裔。アンテとは違った過ちを犯し、再び世界に闇をもたらした破滅の罪人の生き残り。その自分が、今の世界を作ったと言ってもいいファンデルと戦おうとしている。
自分の部屋に入り、精霊使いの服を脱いでベッドへと場所を移してからも、ミディエはファンデルとの戦いの先にあるものに考えを巡らせていた。
――生きたい。
――生きてほしい。
答えを与えるだけの存在であるはずのエスが、なぜミディエにそう語って泣いたのか。
新たな事実を知るごとに、新たな謎が浮かび上がる。自分が生きている間にあとどれくらいの謎が解けるのか。考えながらミディエは今やるべきことを実行するために再び身体を起こした。
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