第13話バーボンは誰のために

畑中は女性に挨拶してから、隣に座った。

女性の名前は久保と言った。下の名前は言わなかった。


「お酒、強いんですね。ずっと、バーボンばかり飲んでいらっしゃる」

と、久保が言った。

この女性は畑中を観察していたのだ。

「お兄さん、おいくつですか?まだ、30代ですよね?」

「すいません。45のオッサンです」

畑中も年齢を尋ねたかったが、女性に年齢を聞くのは失礼だ。しかし、ダイナマイトボディー。

聴けば、彼女は高校教諭らしい。

保健教諭だと言った。

若い青年らの、注目の的だろう。


畑中と久保は仲良く喋り始めた。取り留めの無い話しばかりだが。久保は良く笑う女性だった。ずっと、畑中の事をカッコいいと言っていた。畑中は、プロだ。

この女性は神が投げた暴投。この球は逃しません。プロですから。


「久保さん、この後、僕の家……」

「すいません、ちょっと電話出ていいですか?」

「どうぞどうぞ」

「……うん、うん。そうそう。……うん。じゃあね」

「久保さん、忙しいんですか?」

「いいえ」

「人数増えても良いですか?」

「いいとも」

彼は思った。コレは暴投。逃しません。まさか、女性2人と3Pか?

畑中は、股間が熱くなって来た。

「畑中さんは、彼女とかは?」

「……今はいないよ。そろそろ出来るかも知れないが」

『それは、君の事だよ!』


カランコロン


「あ、あっ君、ここ、ここ」

1人の若い男性が入ってきた。

「紹介します。彼氏のアツシ君です」


『キャー!畑中ショック!マナブ君、ダウン寸前だぁ〜。タップしてタップして』


「初めまして、成田篤なりたあつしです。エリカがお世話になったそうで」

「いやいや、こちらこそご丁寧に」


「あっちゃん、何飲む?バーボン」

「バカ、バーボン飲むと勃たなくなるだろ?」

「……エッチ!」


畑中は、バーボンを呷った。いっつもそうじゃん。狙った女の子には必ず、相手がいる。

あの、小林クリニックの紗千めぇ〜。信じて飲んだのに。

畑中は、涙ぐんでいた。

「畑中さん、どうしました?涙目になってますよ!悲しい事あったんですか?」

「良かったら、僕らが聴きますよ」

「……い、いや良いんだ。オレはこの後予定があるから、出る。マスター置いとくよ。お隣さんの分も」

と、言って1万円置いて行った。


背中から、男女で、「ありがとうございます」の言葉を聴いた。

畑中は、帰宅してシャワーを浴びた。

タオルで髪を拭いていると、携帯が鳴る。

画面には、「立花」と出ていた。あの、レズの後輩だ。榊󠄀原のパートナー。

何だろと、電話に出ると立花は泣いていた。

どうしたかの尋ねると、パートナーの榊󠄀原が倒れたらしい。

病院名を聴いて、タクシーで目的の病院まで向った。

待合室に立花が震えながらソファーに座っていた。

畑中は思わず立花を強く抱きしめた。

「大丈夫。榊󠄀原は大丈夫」

処置した医師が出てきて説明した。脳内出血しており、今から緊急のオペをするらしい。家族に連絡してほしいとの事。

立花は、榊󠄀原の親を知っている。涙ながらに電話していた。


1時間後、榊󠄀原の両親とお姉さんが現れた。

畑中は挨拶した。

「すみません。会社の方にご迷惑をお掛けして」

「私は大丈夫です。しかし、オペが長いですね」


2時間後、榊󠄀原のオペは終了した。医師の話しによると、海馬付近の出血だったので、記憶障害が残る可能性があるとの事。命は大丈夫だと言う事。

結果を聴いた畑中は、家族だけにしようと帰宅した。夜中の4時。

彼は泥の様に眠った。

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