第12話畑中、西へ

畑中は7月になると、毎年名古屋から神戸まで出張だった。

出張先では、水害の損保関係の研修がある。決まって4日間。

夜は三宮で遊ぶ他の支店の馬鹿がいたが、畑中は大人しくホテルでテレビを観て過ごしていた。

中華街で飯を食べ、大人しい他の支店の男と酒を飲み、夜の街へとは繰り出さない。

そいつは、突然左手が動かなくなったと言って、右手に比べて左手はやせ細っていた。

会社の愚痴を言いながら、過ごした。

研修中、損保の保険金の額を決めるテストがあった。

畑中は電卓を叩きながら、計算すると、3億

8千万円の答えをだしたが、答えは380万円だった。

桁が、2桁も間違っていた。

テストは35点だった。

講師の言われるがままに計算したのだが、他の連中は資料を読み計算していた。

名古屋にもどると、後田課長が、

「畑中君、君には損害保険の仕事は任せられないな」

と、言うので、

「ろくに、英語も喋れないヤツに言われたかねぇよ」

と、反論した。

畑中は、発音は問題があるが、英会話は得意だった。

だから、輸出船の外人と折衝出来るのだ。



そこに、1人の女の子が上司ともにやってきた。


「よっ、下原君。どうした?若い子連れて」

「畑中ちゃん、今日は挨拶」

「今度、トヨダマ海運の輸出課に配属されました、山下です。宜しくお願い致します」

と、女の子が挨拶した。

「僕は名港トランスコーポレーションの車両課の畑中です。宜しく」

と、畑中は右手を出して山下と握手した。良い匂いがした。

「君はどこの大学なの?」

トヨダマ海運は大卒しか採用しない。

「J大学です」

「お嬢様大学だな?まぁ、頑張って。下原君じゃ物足りないだろうが」

「畑中ちゃん、オレは仕事出来るよ!」

「知ってる知ってる。じゃ、山下君、これから宜しく」

と、挨拶したのが四月。


六月になると、山下が再びやってきた。

「畑中さん、お世話になりました」

と、言う。

「どうした?配属先が変わったの?」

「いいえ、退職するんです」

「え?四月入社してまだ、2ヶ月しか経ってないよ!どうして?」

「実は、結婚するんです」

「ほう、寿退社か?」

「はい」

「で、何でまた急に?」

「妊娠してるんです」

「キャー、聞きたくない、聞きたくない!この、オッサン、一度も妊娠したことないのに」

近くにいた、植木が、

「畑中さん、男は妊娠出来ないでしょ?」

「うるせぇ〜」

「すいません。そう言う理由の退職で」

「まぁまぁ、元気なベイビーを産みたまえ」

「はい。ありがとうございます」


下原は、そばにいたが一言も喋らなかった。


そうか、若いヤツラは結婚とか妊娠とか、リアルだな。

オレは45だし、子供が成人する時は65だなぁ。

恋の意味さえも分からなくなってきた。

最近、熱帯魚のベタをグラス飼いしている。ベタは闘魚でもある。鏡を立ててやれば良い。

最近疲れた。また、小林クリニックへ向った。

「あら、お久しぶり。畑中さん」

「紗千ちゃん、最近、周りが恋やら結婚やらで。参ったよ。効くやつ一発お願い」

「じゃ、今日は点滴ね」

「うん。それでお願い。僕に恋愛なんて無理だよ。仕事は出来ねぇし。この前、損害保険の金額、2桁間違えたよ」

「……アハハハ。畑中さんらしいわね。40分かかるからね。直ぐに看護師がくるから」

「はい」


畑中は点滴をして、ポツポツ落ちる液体を見てると眠たくなった。

直ぐに寝落ちした。


「ハーイ、畑中さん、終わりましたよ〜」

「後、10分」

「ダメダメ、中学生じゃ無いんだから。起きなさい。今日は栄養剤打ったから、明日からまた、頑張れるわよ」

「ねぇ、紗千ちゃん。出会いって、何?」

「出会い?それは、交通事故と同じ」

「どう言う意味?」

「いつ、どこで起きるか分からないってことよ」

「ま、まぁね」

「早く、恋愛しなさい」

「君はそれしか言わないよね?さて、どこで見つけたら良いのだか……」

「バーで1人で飲んでいる女性がいたら、チャンスよ!きっと、寂しいと思うの」

「ば、バー?」

「うん」


畑中は、お会計を済ませてぶんぶく寿司で食ってから、オールドクラックと言うダサい名前のバーに向かった。

このバーは良く利用するのだが。

畑中はバーボンとチョコレートを注文して、座っていた。カウンターには畑中1人。テーブル席には2組のカップル。


カランコロン


客が入ってきた。

女性だった。しかも、ダイナマイトボディーの女性。

彼女は、マリブコークを注文した。

畑中はチャンスを伺っていた。1時間ほど飲んだが、彼女は1人だった。

だから、畑中はそのお姉さんに声を掛けた。

「お一人ですか?」

「え、えぇ」

畑中は名刺を出して、

「怪しい者ではありません。畑中と申します。私も1人で飲んでいますから、お話し相手になってもらえませんか?」

女性は名刺を見て、

「ハタナカさん?私で良ければお相手します」

「ありがとう」


2人はバーのカウンターで飲み始めた。

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