第10話かっこいいオジサン
「え?」
「だから、オジサンかっこいい!」
畑中は冷たいお絞りも再びもらい、顔を拭いた。
ついでに、首すじとワイシャツのボタンを外して、腕を拭いた。
冷たさで、酔いが少し覚めた。畑中はよく顔を見ると、そこには若い女の子が座っていた。
「君は、未成年かい?」
「いいえ、21です。星ヶ丘の大学に通っています」
う〜んと言いながら、畑中は安っぽいジーショックを見ると、夜中の2時。
「に、2時?親が心配するだろう」
「親はいません」
「どう言う事?」
「それは、後々話します。でも、オジサンかっこいいですよね」
「まさか、君は美人局か?」
「畑中さん。この子は私の知り合いです。美人局じゃありませんよ。弓道部のキャプテンをつとめていて、今日は試合終わりの酒なんです。少し前までは、もっと若い子いましたよ」
「べ、別に女の子に困ってはいない」
「素敵!さすが、オトナの男性」
「そ、そうかな?」
「はい」
聞けば、近所のアパートに姉妹で暮らしているらしい。妹の方であった。
お姉さんは、パチンコ屋の店員だと。いつか、打ったことのあるパチンコ屋なら、挨拶せねば。
しかし、この女の子、一体何を考えてるのか?
怪しいので、免許証で確認した。
平成生まれの女性だった。
水谷れい。名前は判明した。
夜中の2時だと言うのに、この水谷は酔っていない。理由は簡単だ。酒が飲めないからだった。聞けば、アルコール消毒でかぶれるらしい。
「私、オジサンが好きなんです。汚らしい男の人は特に」
「お、オレが汚らしいのか?」
「はい。オッサンって感じしますよね」
「……」
「大学の男の中で、たまにお絞りで顔拭く人がいますが、あれはネタですね。オジサンは違う。クチャラーだし」
畑中は飲む気が失せた。この小娘、オレの事を笑って、月曜日のネタにする気だ。
「大将、おあいそ」
「もう、ですか?畑中さん」
「今日は、飲み過ぎだから。水谷とか言ったな。小娘?」
「はい」
「君がこの寿司屋で、深夜までいるのは100年早い」
「……すいません」
「畑中さん、何だかすいません。後で、説教してやります」
畑中は振り返らずに、店を出た。
コンビニでポカリを2本買って帰宅した。
その日は、ベッドに寝転がると翌日の10時まで寝た。
朝10時。
LINEの通知音が鳴る。
すると、ぶんぶく寿司の大将からだった。
昼間に行けば、昨夜のお詫びをしたいと。一度、遠慮したが是非にと言うので寿司屋に向った。
「昨夜は、すいませんでした」
と、水谷が店の前でお詫びした。
昨夜は、こってりと大将に絞られたらしい。
可哀想なので、昼飯を食べた。この日は飲まないと決めていた。
「れいには、きつく言っておきましたから」
「別に怒ってないよ」
水谷は破顔して、ランチ寿司を食べると、スィーツの店を案内してくれた。
かき氷にバニラアイスが乗っかってるものを勧めてくるので食べた。
親の仇の様に甘い。
甘いの食ったら、今度は塩っ辛いものが食べたくなってくる。
夕方前、焼き鳥の塩を注文した。水谷は、ノンアルコールビールを飲みながらパクパク食べる。
畑中は緑茶を飲んでいた。別に会話なぞしていない。
飲まない日は、つまらない人間である。
「畑中さん」
「ん?」
「LINE交換してください」
「い、良いよ」
「ありがとうございます」
「君は早く、彼氏を作った方が良い。僕みたいなオッサンと飯食ってる場合じゃない。しかも、就職活動だろ?今」
「……そうです」
「早く学生の本分を考え直した方が良いよ」
「はい」
2人は店を出て、解散した。
LINEが届く。水谷からだった。
来週末、話したい事があると言う。お金の問題なら話しは聞かないと返信したが、違うと言う。
畑中は、1人で心配になった。そして、週末、待ち合わせして喫茶店ポエムの入り口に立っていた。
雨がだんだん酷くなる。すると、傘を差した水谷が現れた。
先週の笑顔が無い。まさか、妊娠か?はたまた、病気か?畑中はドキドキした。
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