第8話おかしな会話

畑中は榊原と歩いて『石田屋』へ向った。

道中、色んな話しをした。


「君は、お弁当屋さんを手伝っているといったが、何ていうお店?」

と、歩きタバコしながら、尋ねた。

「『みさと』です。姪っ子の名前からつけました」

「みさとさん?」

「はい」


2人は、石田屋に入店した。

ビールで乾杯。

サガリを食べる。生食はいけないのだが、畑中はワサビ醤油で生で食べた。保健所がうるさくなる前は、生食は普通だった。

榊原は、焼いて食べた。

「お兄さん、めちゃくちゃ美味しい」

「……でしょ?」

2人無言でサガリを食べて、手酌で瓶ビールを飲む。

「畑中さんは、ご結婚は?」

「1度もした事ない」

「かっこいいのに」

「そう言う君はどうなんだい?」

畑中は期待していた。

「同棲しています」

「……あ、そう」

畑中は、目眩がした。あわよくばの考えだったからだ。

「榊原さんの、彼氏はカッコよさそうだね」

「彼氏じゃないんです」

「どう言うこと?」

「私、レズなんです」

「ほう」

「驚かないのですか?」

「僕の知り合いに、トランスジェンダーレズの子がいるから」


畑中は別に驚きもしない。今の時代、性別や性的指向は自由だ。

彼女が、レズであっも問題ない。


「私、仕事探してるんです」

「弁当屋の手伝いでしょ?」

「パートで安定しないんです。給料が。私に紹介して頂ける仕事は無いでしょうか?」


畑中は、お絞りで口を拭いてから、

「実は、うちの会社の事務員が足りない。推薦してあげようか?」

「でも、お兄さんの迷惑になりませんか?」

「もう、僕らは飲み友達だ。うちの会社で働けば良いよ。でも、入社試験はあるけどね」


榊原は、お勘定を持ち店員さんを呼んだ。

「ここ、私の奢りです」

「いいよ、いいよ。僕が払うから」

「また、今度飲む機会があったら、その時はお願いします」

「悪いね」


2人は石田屋に1時間ほど滞在して、店をあとにした。

「来月、一緒に働く事が出来るのを楽しみにしてるよ」

「また、LINE送ります」

「じゃあね」

「はい。また、今度」


月末、制服姿の榊原が同じ車両課に配属された。

若い連中はニヤニヤしていた。

下品な奴らめ!

会社では、新人歓迎会が開かれ、若い男どもが、いくら落とそうとしても彼女は拒絶した。

「同棲してます」

と、彼女が言うと男共は退散した。

新しい仲間の誕生だった。


細田と植木は、他の社員と話していたが息の臭い後田課長は白川を捕まえ、精神論を熱く語り、畑中と相原は榊󠄀原を挟み下らない話しをした。

相原には、畑中が彼女がレズである事は伝えてある。

この事は3人の秘密にしていた。

さて、畑中は困った。

「榊󠄀原君、僕にお似合いの女性はいないかい?」

「もう、発想がオッサンですよ!」

「そうだよ、畑中ちゃん。もう、諦めなさい!」

「……そうだ、この後『沢之屋』へ、行こうよ!」

と畑中が提案した。

「僕は嫁さんと約束があるから、もう帰らなきゃ」

「おうっ!帰れ帰れ!」

「私は、パートナーとの時間が……」

「待ってる。干支が変わっても待ってる。じゃあさ、パートナーを沢之屋に呼びなよ!駅前のコンビニの裏だから」

「……はい。LINEしてみます」

 

間もなく、歓迎会は終了した。

相原は、じゃあな!と、言って帰って行った。

「畑中さん、パートナー、OKだそうです」

「よしよし。そのパートナーやらと、会って若い知識を手に入れよう」


パートナー……、それは意外な人物だった。


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