第7話胸の谷間
出社前、腹が減ったので喫茶店へ寄る。名古屋の喫茶店は、モーニング文化。コーヒーに、パンやサラダ、ゆで卵なぞ付いてくる。
畑中は、小倉トーストとサラダ、ドレッシングはごまダレで、ゆで卵も所望した。
これで、480円とは安い。
畑中は単行本を読み始めた。使い古したブックカバーがお気に入り。
周りから見れば読書好きの中年だが、畑中が読んでいるのは官能小説。
下半身を熱くしている。
そこに店員が現れた。
店員とは顔見知りで、何度か近くの居酒屋で会った事もある。店員は60代のオバサンだ。
「畑中さん、相席良いかしら?」
「良いよ。もうすぐ出るし」
「ゴメンね。今日はいつもよりお客様が多くて」
「雨だからね」
しばらくすると、相席の相手が正面に座った。
「すいません。相席お願いします」
と、振り向くと若い女性が座った。夜職なのか?胸の開いた服と、メイクが整っている。
キャバクラの女か?
暫く黙って、畑中はコーヒーのみながら単行本を読んだ。
女はクスッと、笑った。
「お兄さん、その本面白いんですか?」
畑中は、
「ドフトエフスキーの『罪と罰』だよ。面白いよ」
「『女性器、くノ一忍法帳』とありますけど。フフッ」
何たる事か?ブックカバーが薄れて、タイトルが見えていた。畑中は冷静に本を閉じて、カバンにしまった。
「君は、常連かい?」
「はい」
「夜職?」
「え?高校で数学を教えています」
「せ、先生なの?」
「はい」
「でも、君は凄い服着てるよね?」
畑中はアイスコーヒーをストローでチューチューした。
「男子高校生に見られるのが好きで……。たまに、放課後、生徒とヤッてます」
ブッ!
「き、君は、冗談きついね?」
「ウソです。妹のお弁当屋さんで働いてます。今日は店休日で、ゆっくりコーヒー飲もうと思ったら、満席で。すいません」
女はお絞りで手を拭いた。
「お兄さんは、サラリーマンですか?」
と、女は尋ねた。
「うん。でも、勤続年数23年で平社員。でも、苦労してないよ!」
「お兄さんの名前は?」
「畑中学。君は?」
「榊原です。美穂です名前は」
「榊原さんは、若いよね?」
「若いと言えば若いですが、29歳ですよ。もう、オバサンです」
「若い若いよ〜。オレなんて45よ!45」
「若いじゃないですか?」
「そうかな?」
畑中は腕時計を見た。7時30分。
もう出なきゃ。
「榊原君、また、いつか会おうね?飲める人?」
「少しだけなら」
「じゃ、今度会ったら飲もうね。金曜日見かけたら声掛けるわ。夕方、6時過ぎにこの辺りで見かけたら誘う」
「ありがとう、お兄さん」
畑中は自分勘定と榊原の勘定を済ませて出社した。
『あの、ミルクタンクスゲェなぁ〜。あれで、男は騙されるんだ。これは、相原軍曹にレクチャーを受けよう』
朝、いつものルーティンを済ますと、喫煙室でタバコを吸っていた。
間もなく、相原が現れた。
「ねぇねぇ、久しぶりにエッチするかも知れないけれど、どうしたらいい?相原君」
相原は、缶コーヒーを飲みながら、
「とうとう、彼女が出来たの?」
「い、いや。初めて相席した人が爆乳だったから」
「良いよ!トイレ行こっか?」
「え?どうするの?」
「エッチのレクチャーさ」
2人はトイレに向った。手洗い所の姿見で確認しながら、
「畑中ちゃん、まずは相手の腰に手を回し、そっと抱き寄せる」
畑中は左手を回して相原を寄せる。
「違う違う」
「もっと、自然に」
「こ、こうかな?」
畑中は相原をそっと抱き寄せた。
「そうそう、そして、唇を近づける」
「な、何やってんだ!お前ら!」
後田課長だった。
「ち、違うんです」
と、畑中が弁明する。
「この事は社内で、秘密にする。今はジェンダーレスの時代だ。オレも分かっている」
2人はトイレを後にした。
あっという間に金曜日。
喫茶店の周りを確認すると、喫茶店の入り口に爆乳お姉さんが立っていた。
「榊原さん」
「あっ、お兄さん」
榊原は今日は、胸を強調する服装では無かった。
どこのブランドが分からないTシャツを着ていた。
畑中はワイシャツにネクタイ。
ジャケットは夏場羽織らない。
「ちょっと、1杯、やってみる?」
と、言うと榊原は喜んだ。
いつもの店は会社の連中が居そうだから、サガリが美味しい、「石田屋」へ向った。
ここで、恋が芽生えるのか?
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