第6話狂ったシナリオ

しばらく、2人は静かにビールを飲んだ。今更、オレと交際を申し込んだいずみの図々しさに腹が立った。

あの時、オレがどれだけ心を痛め、泣いた事か。

学生時代仲良くして、社会人直前でIT企業の男とくっついたのだ。

二股掛けられていた。

「いずみ、オレはまだお前を許してはいないんだ。もう、会うのは辞めよう。どんな理由があったのか分からないが、お前はオレを裏切った。いずみのシナリオ通りにいかないんだ」

畑中は、ビールを飲み干すと帰る準備を始めた。

だが、いずみは、

「ちょっと待って!最後だから、もう少し飲もうよ。私が悪いのは100%だと思ってるから」

いずみは必死だった。なぜだろう。畑中は訝しんだ。

「最後だからな」

「うん」


2人は山ちゃんを出て、トコトコ歩いて静かなバーに向った。

畑中はジントニック、いずみは水割りを飲んだ。

「マナブ君。私が悪い事したの反省してるの。許してくれとは、言わないけど……」

畑中は深いため息をついて、

「なんだ、そんな話をするためにここに連れて来たのか?」

「……違う。実は……」

「実は、何だ?」

「私、膠原病なの」

「膠原病?」

「うん。それで、来月から入院しなきゃいけないの。だから、もう、マナブ君と会うことが出来なくなるから、最後に飲みたかったの。そして、謝りたかったの」


膠原病は、最悪、死に至る病気だ。畑中はいずみの事を少し心配した。でも、今の医療は最新で治療法も進んでいると思う。


「退院したら、また、飲もうや。もう、怒ってないから」

畑中は複雑だった。ものすごい怒りはある。しかし、いずみは膠原病と言っている。いたたまれなくなり、ジントニックを一気飲みすると、

「もう、出る。お前は、ゆっくり飲め」

と、言ってカウンターに一万円札を置いて店を出た。

いずみは、寂しそうな顔をしていた。

入院先も聞かなかった。

畑中は、恋愛は出来ないと諦めた。

どうせ、また、女に裏切られる。しかも、オッサンだ。オレの事を好きになる、女なんていない。

畑中は腕時計を見た。まだ、22時過ぎ。

だが、もう、飲む気はしない。

帰宅してシャワーを浴びて、深い眠りに着いた。


翌朝、LINEをチェックすると誰からも届いていない。

1人、孤独感を味わっていた。

マッチングアプリなんぞ、誰がするものか。

もう、畑中と接点のある女は全て没となった。

諦めた。

だが、思いもよらぬ女性が現れる。

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