第3話全て閣下の仕業

「閣下、今夜の飲み会でありまするが、3人の女子は全員参加だそうです。おめでとうございます」

「ありがとう、相原君」 


相原は週末、女社員3人を飲みに誘ったのである。

もちろん、細田、植木も。


仕事を残業しないといけなかったので、畑中は2時間遅れで皆んなの待つ居酒屋千代に向った。

15年前までの千代は幽霊屋敷の様な店だったが、店主の凛が今の小綺麗な店舗に移転したのだ。


ガラガラガラ


「いらっしゃい。……あっ、畑中さん。皆さん、奥座席でお待ちです」

「凛ちゃん、また、妊娠?3人目って聞いたよ」

「子供好きですから」

板場を覗くと、旦那の拓也がこんばんはと畑中に言った。

「君も、ここ長いよね?」

「20年です。18の時から居ますから」

「凛ちゃんを大事にしなよ」

「はいっ」


畑中は遅れて、皆んなの前に現れた。


「よっ!待ってました!閣下」

周りは出来上がっていた。

女子の白川、三谷、平林も酔っていた。

チャンスだ!

この中の誰を彼女にしようか?


植木と平林は20代組だったので仲良く喋っていた。

細田と三谷も楽しそうにやり取りしていた。

狙うは白川久美子だ!本命。良し決めた!


「あの、後田のバカ。船間違えて、車1台積んじゃったんだ。だから、回収の手配で遅れたんだ」

と、畑中はビールを飲みながら言った。

相原は、

「アイツ、口だけでホント仕事出来ねぇから

な。ねぇ、白川ちゃん」

「課長、息臭いんです」

「え?オレも臭いよ!」

「大丈夫です。臭いませんよ」

「そう?」

「はい」


畑中は考えた。どうやって、白川を落とすか?

こういう場合は、変化球だ。

直接的な表現はセクハラになる。相原に目線で合図した。相原はコクリと頷いた。

「白川ちゃん、マツタケとか好き?」

「はい。好きです」

「……」

「マツタケがどうしたんですか?」

「実は、オレのマツ……」


ゴホンッ!


相原は咳払いして、首を振った。

あ、こういう質問はいけないのか?と、畑中は気付いた。

「マツタケがどうかしましたか?」

「あ、秋、皆んなでマツタケを食べに行こうね」

「はい」


白川は時計を気にしていた。

「どうしたの?白川ちゃん」 

「うちの彼氏と、21時に待ち合わせしてるんです。すいません。一足早く帰って良いですか?」


……グハッ!


「か、彼氏?ここに呼びなさい」

「悪いです」

「良いから良いから」

と、畑中はそう言って、ハイボールをガブガブ飲み始めた。

「大丈夫ですか?畑中先輩」

「何が?」

「そんなに飲んで」

植木が言った。

「大丈夫だよ。歴が長いんだから、飲酒歴が!」


しばらくすると、白川は店外に出て、彼氏を連れてきた。

身長が184cmあるそうだ。畑中は174cm。

金髪の男の子だった。背中には、ギターらしきモノを背負っている。


「こ、こんばんは。皆さん。初めまして。石井です」


キャー!


彼氏、カッコいい上に礼儀正しい。

畑中は敗北を認めた。

白川には彼氏がいる。三谷も聴けば彼氏がいるらしい。

平林は植木と仲が良い。45のオッサンが彼女らに付け入るスキが無かった。相原は畑中の肩に手を置き、首を振った。


畑中は石井に酒を散々飲ませた。ここの飲み代は領収書を切る事にした。

これは、福利厚生手当てで落とすつもりだ。

解散して、公園のベンチで畑中と相原は互いにタバコを吸いながら、話していた。

「閣下、今日の飲み会は勉強になったね。やはり、僕達はオジサンなんだよ」

「そう、簡単に恋愛なんて出来ないな。オレ、恋愛諦める」

「落ち込むなよ、閣下」

「しかし、閣下ごっこも楽しかったな」

「うん」


2人は公園で別れた。

畑中はコンビニへ向かった。喉が渇いたので、ポカリを買いに。

週刊誌を立ち読みした。ヌードをじっくり眺めていると、コンビニの女性店員が咳払いをする。

畑中は無視した。

「す、すいません、お客様」

「何だよっ!」

と、振り向くと、

「……あっ!君は」

「な、何でしょうか?」

「いずみ?」

「え?」

「いずみだよね?丸川いずみ」

「……ま、まさかマナブ君」


果たして、この仲は何だろう?


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