第2話彼女の鑑定
ビタミン剤が効いたのか、夜には体調が回復して、同期の相原と落ち合って、夕食を食べる事になった。相原は、既婚者で子供が3人いるが、福利厚生の厚いこの会社では、飲み代ぐらいは稼いでいるし、相原の奥さんとも顔見知りなので、別に飲みに誘っても許される。キチンと帰れば問題ないのだ。
2人は、うるさいチェーン店は嫌いなので、落ち着く、「沢之屋」で、マグロステーキをツマミに白岳しろを飲んでいた。
しろは、米焼酎で熊本の酒だ。
お姉さんに、
「オレのボトル下ろして」
と言うと、
「は〜い」
と、言って水割りセットを運んで来た。
「畑中さん。もう、1本入れとく?」
「うん。そうして」
大将の娘は新しい白岳しろを下ろした。
この「沢之屋」は、他の連中も利用して勝手に畑中のボトルで飲むから減りが早いのだ。
細田や植木には、畑中のボトルで飲んでも良いと言ってある。
「どうしたの?畑中ちゃん。話したい事って」
相原は、突き出しのナスの揚げ浸しを口に運んでいた。
また、このナスが甘い事。美味しい。
「オレ、彼女作ろうと思って」
ブッ!
相原は焼酎を吹き出した。
「畑中ちゃん。どうした?」
「今日さ、病院でビタミン剤打ってもらったんだけど、紗千ちゃんが彼女作れってさ」
畑中はマグロステーキをナイフで切り分けていた。マグロステーキは、マグロの尾っぽの付け根だ。
「紗千ちゃん?……あぁ、あの美人の先生か。恋は良いよ」
「でもさ、45にもなって、今更アオハルなんて関係ねぇし、女って言っても、誰だ?うちの車両課では?」
相原は、焼酎を一口飲んで答えた。
「30代の白川久美子、三谷恵、20代の平林理恵くらいかな」
「誰が良い?」
「……誰って、それはアンタが決める事でしょ?」
「だから、既婚者の君の意見を聞きたい」
「まぁ、白川ちゃんかな?お弁当いつも手作りだし。でも、三谷は笑顔が素敵だし、平林は男がほっとかないタイプだな」
「答えになっていない」
「だって、僕に関係ねぇもん。こっちは、子供3匹こさえて、夜勤明けも良く眠れないんだ。ま、これが僕のビタミン剤だけどね」
と、焼酎を指差し、コクリと飲む。
畑中は、矛先をお姉さんに変えた。
彼は、カウンターに立つお姉さんを手招きした。
「何ですか?畑中さん」
「僕、カッコいい?」
「え!どこが?」
「そう言う外見では無くて、大人の男性っぽいかなぁ?」
「そうですね。畑中さんは、私が小学生の頃からの常連さんだから、親戚のお兄さんって感じかな?」
「いくつになった?」
「27です。来月で。」
「27!結婚は?」
「近々」
「キャー!聴いてはいけない事を聴いてしまった。オレ45だけど、結婚してないよ!大将!オレ、結婚出来るかな?」
大将は、カウンターでタバコを吸っていた。
近寄ってきて、
「畑中さんは、大人の男だからきっと結婚出来るよ!」
「ホント?」
「うん」
「こ、小娘!聴いたか?オレはこれから、いっぱい結婚するんだ!」
隣りの相原が、
「いっぱいって、なんだよ!1回で良いの」
2人は今週末、車両課の平社員だけで懇親会を開く事にした。
取り合えずは、彼女候補を探すことが先決だった。
この晩は、21時まで飲んで2人は帰宅する事にした。
畑中と相原は、一万円ずつ結婚祝いとしてお姉さんに渡した。
お姉さんは、喜んだ。
「ありがとうございます。畑中さん、相原さん、また、来て下さいね。次回はお金いりませんから」
と、言うと大将もウンウン頷いていた。
週末どうなる
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