処方・恋愛

羽弦トリス

第1話中年オッサンの薬

畑中学は、中古車貿易会社のサラリーマン。

勤続年数23年のオッサンだ。

今日も朝早くから、自分らが点検した中古車を荷役会社が港まで走り、貿易船に積んだ。


朝早く出勤して、船の入港に合わせて待機していた。


夜中の2時。

無事に自分の会社の中古車は全て問題なく積み込まれた。

同期の相原哲也と現場で待機して、もしもの為に後輩の細田大介と植木直樹も事務所にいた。

細田は30代で、植木に至っては20代だ。


全ての手続きを済ませて、会社のタクシーチケットを使い、行き先は自宅にしたが、畑中の自宅マンション近くの「ブンブク寿司」で、4人で飲んだ。

夜勤の翌日は休みなのだ。

この寿司屋は、朝の4時まで営業している。

全員生ビールで乾杯した。


「オレ、45にもなって、まだ現場だよ。相原君どうしよう?」

と、ビールを飲みながら畑中は尋ねた。

「おいおい、それを言うと僕もまだ現場だよ。この会社は、上が動かないよね。いつまでも、後田は課長だし。20年前までは係長だったけど、アイツまだ、課長だから」

と、相原はコハダを口に運んだ。

「僕達は出世できますかね?」

と、細田がポロリと。

植木は話しには参加しない。どうせ、コイツは数年で転職するだろう。しかし、若手の中じゃ一番仕事が出来る。


「オレ、疲れた。細田、出世したいなら課を変わるしかないな」

と、畑中はお絞りで口を拭きながら、タバコを吸い始めた。

穴子のタレが付いたようだ。

「総務課ですか?」

「まぁ、そうだな。後は誰もが嫌がる人事課か?」


その晩は4時過ぎにお開きになった。各々、タクシーチケットで帰宅した。

翌日、昼過ぎ畑中は目が覚めた。異常な倦怠感がした。

シャワー浴びてから、着替えてパチンコ屋に行く。

マンションの向かいにパチンコ屋はあった。

13時から15時まで打って、3万円ほど儲かった。

しかし、倦怠感が酷い。

掛かり付けの小林クリニックへ行く。

内科を受診した。

小林クリニックは良く利用している。この様な疲れが取れない日はビタミン剤を注射してもらうのだ。

「ちさチャン、また来たよ!今日も、ビタミン剤ね」

「はいはい」

「最近疲れて」

「ねぇ、マナブちゃん。仕事ばっかりはだめよ」

小林先生は、女性だ。

「別に仕事以外する事無いし」

「な〜に言ってるの?マナブちゃん。恋でもしてみたら?」

と、この女医はにこやかに笑いなが言った。

「オレには、女なんて必要ねぇよ」

「恋は良いわよ!恋しなさい」

「恋ねぇ」


畑中はクリニックを後にしてから、会社の女性で仲良くなれそうなヤツを吟味した。

そして、すぐに作戦を練った。

小林クリニックでは、恋愛が処方されたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る