第2章 神の剣

チャプター1

 パステはモバイルコンピューターを片手に会議室に入った。

 会議室にリージョンの王が揃っているというのは、圧巻だった。

 40代から60代のエルフの男たちの中心に座ったパステは、一人ずつの自己紹介を受けた。

 パステから向かって左側にリージョン1から5、右側はリージョン6から10である。右の一番手前はリージョン6のルート、ロニールである。

 最後にパステは立ち上がり、簡単な自己紹介をした。情報はすでに各ルートに伝わっているため、簡単なものでいい。最後に、よろしくお願いしますの挨拶をし、お辞儀をして座った。

 パステは堂々と言った。


「緊急で解決しなければならない問題は、どのようなものでしょうか?」


 リージョン3のルートが右手をあげた。細身の40代の男性で、名前はヤノヴァンといった。


「やはり貧困問題でしょう。反乱の原因となる不満は、これがトリガーとなります」


 リージョン7のルートが続いた。


「かといって、富裕層の税金をあげて貧困層に回すと、今度は富裕層から不満があがります」

「富裕層も反乱を起こしますか?」

「いえ、それはないでしょう。問題なのは、企業がここから撤退をして、他のエリアに移ってしまうことです。そうなると、エリア3の経済は成り立たなくなります」

「食料の自給率の問題ですね?」


 半数のルートが頷いた。

 パステは言った。


「私にはわからないことが2つあるんです。一つは、反乱は武力で抑えてはダメなんでしょうか?極論になりますが、貧困層を全て処分してしまえば、不満は解決する気がするんです。貧困層は能力もさほどないと思いますし、いなくてもポルタランドとしては影響ないのではないでしょうか?」


 リージョン4の男がいった。60代の男性で30年のキャリアとなる。


「15年ほど前にそれをやろうとしたエグゼクティブルートがおりましたが、抵抗にあって失敗に終わりました」

「警察が動かなかったというのが原因ですよね?警察も人間ですから。で、そのエグゼクティブルートは大反乱で追い詰められて自殺……でしたね」

「はい、そうです。仮に、上手くやれたとするなら、パステ様はそういう路線を検討しておられるのでしょうか?」

「いえ、今の段階ではそういうプランはありません。ですが、貧困層がいなくてもポルタランドに影響が無いというところは、肯定したいです。まあ、難しいのはわかります。処分となると、ビジネスの失敗で貧困層に落ちる恐怖が段違いですから、企業も社員も安定ばかりを選択して、のちの経済に影響が出ることは間違いがないでしょう」


 ルートたちは頷いた。パステが若いとはいえ、エグゼクティブルート試験のペーパーテストを満点で突破したということだけはあるなと感じる。


「では、次の質問です」


 パステはコンピューターの電源を入れると、部屋に設置してあったプロジェクターに接続をした。

 パステの背後にはモノムの作成した、大手の車メーカーの収益グラフが表示された。先日、モノムと話をしたように、リージョン8の『アルマ・モータース』の車の性能がよくないのに収益があがり、政府も採用している理由を尋ねた。

 先程乗ったリムジンもアルマ・モータースのものだった。

 視線がリージョン8のルートに集まった。50代の顔中に髭をはやしたエルフだった。

 彼は苦笑いをすると、


「性能は必要十分じゃないですか」


 と両手を広げた。


「不要な燃料費を支払うことは、ポルタ様のためになりません」

「当然です。ただ、政府の扱う燃料費は大したものではありません」


 パステは顎に右手を当てた。


「あの運転手もアルマ・モータースの社員なのでしょうか?」

「自社の車の扱いには、慣れていますからね。パステ様はここまでの運転に不満はありましたか?」

「それは……無かったです」

「なら、問題はなにもありませんよね?対象をアルマ・モータースに絞ることで、機密情報も守られますし、情報漏洩の面でも安心です。だから、これは些細なことで、パステ様が気にするような問題ではないんです」


 彼の言っていることは、すじがとおっている。とおっているが、パステにはどうしても納得できなかった。


「ほかの車メーカーからは不満があがらないのでしょうか?」

「そりゃ、あがりますよ。そこを抑えるのが私の役目なわけです」


 自信満々に胸をトントンと叩く彼を見て、ピンときたパステは、すこし演技をすることにした。


「えっ?ルートも年季がはいると、そんなことができちゃうんですか?凄いじゃないですか!」


 所詮は23歳の娘かと甘く見た彼は、


「当然ですよ。私の実力です。まあ、それを発揮するために、すこし見返りは頂いておりますがね」


 と返した。


「賄賂というやつですか?」

「いえいえ、ちょっとした見返りですよ」


 その瞬間、パステはディザスターを取り出して彼の顔めがけて放った。まばゆい光線が輝くと、彼の後頭部が吹き飛び、首から血が溢れ出した。

 彼らはざわつくことすらできず、黙り込んだ。部屋にはモバイルコンピューターとプロジェクターの小さなファンの音だけが聞こえた。

 顔色を変えたルートたちを見ながら、パステは冷静にアーティフィカルシグナに触れた。

 相手はネザリウスだ。


「パステです。エリア3のリージョン8のルート、代わりの人をお願いします」


 ネザリウスは耳を疑った。


「えっ?な、なにか問題でもあったのか?」

「企業から賄賂を受け取り、優遇していたので処分しました。ポルタランドの競争精神に反します」


 ネザリウスは、


「わかった、手配する」


 と答えるのに精一杯だった。まさかパステが初日にディザスターをルートに向けてぶっぱなすとは考えもしなかった。あまりにも予想外の行動だった。

 パステが回線を切るのを見て、リージョン7のルートが恐る恐る言った。


「で、ですがパステ様。政府と企業の協力というのは少なからず、あるものです。実際……」


 彼の説明はそこで終わった。パステがディザスターを放ったからだ。


「私がエグゼクティブルートである間は、一切許しません。他のルートはどうですか?処分しないので正直に言ってください」


 そう言いながら、パステはアーティフィカルシグナに再び触れ、ネザリウスを呼び出した。


「またお前か。今度はなんだ……」

「リージョン7のルートの手配をお願いします」

「はあ?」


 ネザリウスはつい、冷静さを失って声が裏返った。


「そいつも処分したのか?いくらなんでもやり過ぎでは……」

「ポルタ様のためです。よろしくお願いします」


 興奮していたパステは一方的に切断した。

 やり取りを見ていたリージョン2、5、9、10のルートは順番に、どこの企業と繋がり、どういうやり取りをしていたのかを正直に伝えた。

 それを聞きながら、パステは高速でキーボードを叩いた。プロジェクターに映されている画面には、そのリストが並んだ。


「これはあとで一つずつ、解決をしていきましょう。ここにある企業には、ルートの皆さんから説明をお願いします」


 ロニールは怯えながら右手をあげた。

 先程、美味しそうにオムライスを食べていたパステがここまでやるとは思わず、怯えていた。隣には死体が2つ、並んでおり、彼の肩も血を浴びていた。


「ふ……2つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「私の勉強不足で大変申し訳ないのですが、ご指導ください。これはポルタ様のためなのでしょうか?」

「当然です」


 パステは言い切ると、アーティフィカルシグナに触れた。

 相手はポルタだ。気の抜けた、


「だれ?」


 の声に、パステは緊張をしながら背筋を正した。


「エリア3のエグゼクティブルートのパステ・ルーヴェです。先日はお世話になりました」

「そういうのいいから、やめてよね。それだけ?」

「申し訳ありません。ですが、ポルタ様にどうしても訪ねたいことがあります。通常ならネザリウス様に聞くべきことなのですが、ポルタ様しか回答を持っておりませんので……」

「おっ、なになに?」


 ポルタは聞く気になったようで、声のトーンが変わった。

 パステは安心して今のやり取りを説明すると、ポルタは元気に言った。


「よろしい!パステが正しいよ!完全に正しい!パステはポルタランドのことを、しっかり考えているんだね!」

「そう言っていただけると嬉しいです」

「ただね、こういうことはいちいち聞かないで欲しいんだよ。今回は新人っていうことで大目に見るし、言ってなかったっていうのもあるんだけど、私にシグナを使うのはダメなんだからね?」

「大変申し訳ありません。以後、控えます」

「ていうか、パステはエグゼクティブルートなんだよ?記念式典の時に言ったじゃん、何をやってもいいって。パステがやることは、全部正しいんだよ」

「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します」

「頑張ってね!」


 ポルタに応援され、パステは笑顔で切断した。

 音声はルートたちには聞こえていなかったが、パステは自信を持って正しかったと伝えた。ルートたちもアーティフィカルシグナがポルタに繋がるとは思っていなかったし、まさかポルタに通信をするとは思わず、パステの行動に度肝を抜いた。

 凄いのがきたな、と。


「ロニールさん、もう一つの質問というのは?」

「ああ……その……アルマ・モータースはどうなるのでしょうか?」


 パステはそれに回答する代わりに、


「私は2つの法律を作ります。即、発行です。エリア3で設立した企業の他のエリアへの移転の禁止と、他のエリアへの工場等の製造はエグゼクティブルートの許可なく不可とするものです。申請書類のフォーマットも合わせて用意してください」


 と言った。


「それから、アルマ・モータースの役員は私が全員処分します。他のルートの賄賂については、企業の罰金ということにしますが、役員が不満を漏らしたり、なにか反対意見をした場合は同様に処分します。よって、リージョン2、5、9、10のルートはこのことを相手に伝えてください。イエス以外の回答がある場合、あなた達も処分します。わかりましたか?」


 4人のルートは背筋を正し、はいと答えた。ペンダントのバリアとディザスターがある限り、パステには絶対に逆らえなかった。ただ、従えば自分たちの処分はないということなので、異論は無かった。


「リージョン1と3のルートは法廷と協力をして、この法律の制定をお願いします。できたところで一度、私に見せてください」


 2人のルートはわかりましたと声をあげた。


「リージョン4と6のルートはアルマ・モータースの役員を緊急で指名手配して、今日中に全員逮捕してください。全員ですよ?抵抗した場合、その場で殺してしまってもいいです。エグゼクティブルートの権限があれば、担当外のリージョンの警察も動かせますよね?」


 ロニールは、


「ええ、動かせます。メディアへの通知はどうしますか?」


 と返した。


「詳しいことは明日、私が話しますが、簡易的なものを事前にお願いできますか?」

「かしこまりました」

「では、今日の会議はこれで終わります。みなさんすぐに動いてください。よろしくお願いします」


 ルートたちはお辞儀をすると、駆け足でホテルを出ていった。

 一人残ったパステは、椅子にもたれかかって、ため息をついた。

 この仕事は思ったより大変だなと感じると、アーティフィカルシグナを使ってモノムに連絡を入れた。内容はアルマ・モータースの話で、ルートを2人処分したと伝えると、モノムも驚いた。


「数日はここのニュースが騒がしくなると思います。ライブラリアンは忙しくなるかもしれませんが……」

「問題ないよ。みんな好きでやってる仕事だし、ビピルのほうでもなにかあるかもね。私から先行して、マネージャーに報告を入れておくよ」

「お願いします」

「逆に、ニュースで出ない細かいこと聞きたいぐらいだし」

「はい、問題ありません。なんでも聞いてください」


 通話を終えると、パステは会議室にあった電話で警察に死体の処理を頼み、部屋をあとにした。


 -※-


 その日のニュースは大騒ぎだった。

 パステの就任とともにルートが2人も交代になり、アルマ・モータースの役員が全員逮捕という内容は、住民だけではなく、マルジェドたちほかのエリアのエグゼクティブルートも震撼させた。

 穏やかな形で初日を終わらせたビピルも目を丸くしていた。

 スタジアムで野球の見学をしてみたいと提案すると、それぞれのルートがどの試合を見てもらうべきかと熱く語り始めて収集がつかなくなったぐらいだ。ルートもエルフであり、野球自体には全く興味は無かったが、エグゼクティブルートのやる気を出させることはポルタのためになるという思いから、真剣に話し合っていた。

 エリア2のリージョン5のホテルに仮の住居を用意してもらっていたビピルは、コップに入った炭酸水を飲みながら、窓から夜景を眺めていた。

 ビルの向こう側には高架線と電車の駅が見え、その先にスタジアムが見える。ここから試合の状況は分からないが、ライトに照らされたスタジアムでは今頃試合が行われているのだろう。

 ビピルは明後日、そこに席を用意してもらった。自分が今いるリージョン5の『ブラックバーズ』というチームのホームゲームの試合らしいので、礼儀としてルールや選手の名前ぐらいはある程度覚えておいたほうが良さそうだと思った。

 ふと、なにかを思い、アーティフィカルシグナに触れてモノムを呼び出した。どうやら、まだ国家図書館にいるようだ。


「まだ仕事してたんだ」

「ライブラリアンの仕事が面白すぎてね。それに、今日は誰かさんが色々と動かしちゃったし、うちのディレクターのミラデュリス様も含めて、だいたい残ってる。ニュース見た?」

「見たよ。パステがディザスターでルートを2人、処分しちゃったやつでしょ?」

「そうそう。で、明日はアルマ・モータースの役員を処分するみたいよ」

「なんで知ってるの?」

「昼間にパステに聞いたから。私のグラフの疑問を解決したって、連絡貰ったんだ。そっちはどうなの?」


 ビピルはふっと笑った。


「普通に挨拶して終わったよ。モノムに言われたとおりに野球見てみたいって言ってみたら、どの試合を見せるのがいいかって、ルートたちで勝手に盛り上がってた」

「ルートって野球に興味あるんだ。3層に染まっちゃった感じ?」

「どうだろうね。接待みたいなものじゃないの?でもさ、私が野球見て、ハマっちゃったらそれって問題なのかな?」


 モノムは笑った。


「いいんじゃないの?ポルタ様が優先っていう軸が折れなきゃ、問題ないと思うよ。それはビピルもわかってるでしょ?」

「もちろん。私はいつだってポルタ様が優先だよ。ドゥーリア家としてね」


 それからすこしの雑談をすると、ビピルは通信を切った。

 次はパステだ。

 冷蔵庫の炭酸水をコップに満たすと、ソファに座って呼び出してみた。パステも仕事を終えてホテルの自室にいたようだ。

 昼間のことを一通り聞いてみる。パステは昼間のことを思い出し、興奮した口調で出来事を語った。

 ビピルは言った。


「私にはできたかな?それ」

「ビピルさん、私達はポルタ様の代弁者ですから、自信を持ってやりましょう。ポルタ様もそれでいいって言っていましたし」


 ビピルはパステの言葉を頭のなかで繰り返した。ポルタ様もそれでいいって言っていましたし?と、言った。


「私、シグナでポルタ様に聞いちゃったんです。そうしたら、私達のやることは全部正しいと、言っていただきました」

「いやいや、待って!シグナってポルタ様も呼び出せちゃうの?」


 パステは苦笑いをした。


「私には逆に、できないっていう発想がありませんでした。ただ、やっていいかと言われるとダメみたいで、もうやるなと怒られてしまいました」

「なるほど……でも、会話できたのはちょっとうらやましいな。それで、そっちはこれからどうなるの?」

「アルマ・モータースの役員を明日処分しますが、結果がどうなるかはわかりません。エリアの人々はどんな反応を見せるんでしょうね」

「どんな反応でも、突き進むだけでしょ?」

「当然です!明日はビピルさんもテレビの取材ですか?」

「うん、そうみたい。若い女だから第一印象はいいだろうって、言われちゃったよ」

「私もです。3層って、歪んだ文化ですよね。2層には容姿で判断をするような文化はありませんので、ビックリです。ビピルさんはその辺を教育する予定はありますか?」

「どうなんだろう。利用できるうちは、したほうがいいかなとも思ってる」

「そういう意見もありますね。私もしばらくは様子を見てみます」


 2人は会話を終えると、明日からの仕事を整理し、眠りについた。


 -※-


 次の日。

 パジャマ姿のパステは、自室でホテルのルームサービスに運んでもらった朝食を食べていた。バターロールや目玉焼きと言ったものは、2層と同じようなメニューだ。

 料理を運んできたコックが昨日の昼食を運んできた人物だったので、具体的に感想を述べながら美味しかったというと彼は喜んで部屋を出ていった。

 合わせて運んでもらった新聞を見ると、一面は自分の記事だった。会議室の様子は撮影できなかったことから、2層で撮影されたパステの写真と、手錠をはめられてパトカーに乗せられていく、アルマ・モータースの役員の写真が並んでいた。

 見出しは『神の剣、賄賂を正す』と書かれていた。神の剣というのはポルタのオーバーテクノロジー、ディザスターのことだ。いい見出しだ。

 内容は好意的に書かれているが、記者の本心はわからない。

 ただ、アルマ・モータースの政府との癒着は昔から言われてきたことだったし、競合会社からすればビジネスに直結する、ありがたい出来事だった。自分を支援してくれるだろう。

 燃費がカタログ値と大きく異なることは、アルマ・モータースの車を購入した客からも疑問視されていた。客は文句を言ったが、無視されていたようだ。個人のホームページでも不満が書かれているらしい。

 企業側もロニールたちの尋問により、役員はリージョン8のルートのもと、不正があったことを認めたと書かれている。これはパステも知らなかったが、そこまでやっていてくれた彼に感謝だった。


 モバイルコンピューターをひらくと、いくつかのメールが届いていた。全て、エリア3のルートからのもので、不正のあったリージョンの詳細な報告、新しい法律の草案などだ。

 全員、仕事が早いなと思いながら、パステはざっと確認した。

 他リージョンの不正については後回しでいい。重いところから対応していくとして、まずは法律に関連する資料を読んだ。

 内容はエリア3で設立した企業の他のエリアへの移転の禁止することと、他のエリアへの工場等の製造はエグゼクティブルートの許可なく不可とすることだ。

 概ね、問題ないように思える。

 自分は法律の専門家ではないため、細かい部分は不明だ。不明点と穴となりそうな部分をまとめていく。優先するべきことは企業が脱出を考える前に、早めに手を打っておきたいということで、この文章の内容をテレビで説明できるようにしておく。

 パステはリージョン1と3のルートに、こういう内容をテレビで話す予定だが、問題ないかと返信した。

 ロニールたちからはアルマ・モータースについての報告があった。新聞で読んだ通りのことが書いてあることを見ると、取材を受けた記者に隠さずにしゃべったのだろう。

 逮捕した役員は全部で15人いた。そのうち5名は抵抗したためその場で射殺し、10名は捉えて昨晩のうちにリージョン6に連行したらしい。つまり、処分のためにパステがリージョン8に向かう必要はない。

 みんな優秀だなと、パステは思う。

 市場があくのはこれからだが、アルマ・モータースの株価は当然、下げ気配だった。パステはこのまま潰れても問題ないと考えているので、救済のために政府の資金を投入する予定は一切なかった。


 パステはポットからカップにコーヒーを入れた。

 香りを楽しみ、そのまま飲み込むと目が冴えてくる。悪くはないが、もう少し酸味が強いものが好みなので、豆を変えてもらおうと思う。

 贅沢な要求か?と考えたが、これぐらいなら問題ないだろう。

 次に、個人のホームページを周回した。検索サイトでアルマ・モータースのことや、パステをキーワードとすると、好意的な内容だった。

 だが、今のパステはエグゼクティブルートであり、反政府の記事はすぐに削除されてしまうため、全て好意的ではないかもと気がついて、やめた。

 パステはコーヒーを飲み干すと、アーティフィカルシグナに触れ、ロニールを呼び出した。


「おはようございます、パステです」

「おはようございます、パステ様」


 パステは昨日の対応に感謝し、本日の予定について話を始めた。

 内容は昼間にテレビの取材があるので、その手順についてだ。パステは自分の考えた手順を伝えると、ロニールはそれでいいのではないかと同意した。

 通信を切ると、テレビの電源を入れた。

 天気予報をやっており、スーツを来た男性がエリア3の地図を見ながら予報を伝えている。全リージョン、晴れらしい。

 今日も頑張るかと、モバイルコンピューターを確認すると、リージョン3のルート、ヤノヴァンからテレビで伝える内容は問題ないと返信がきていた。

 パステは感謝の返信をすると、立ち上がってシャワーを浴びにいった。

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