とある仕える者の〈秘密〉✴︎

 僕、ノエル・ド・サヴィニーには、他者の誰にも話せない秘密がある。それは僕いや私が女ということだ。私が性別を偽る理由は、家を継いで守る為。

 ここ、ベルラック王国では女は家を継ぐことができず、貴族においてその傾向は強い。もし私が死んでしまったら断絶してしまう。

 私はかなり寒い柊雪の月デセンベル の下旬に産まれたらしく、大変だったらしい。私を産んだ負担で、子供を母様は産めなくなった。妾を取る手段もあったが、母様を深く愛していた父様はその提案を拒否。私をサヴィニー家のとして育てることを決めた。

 母様曰く、赤ん坊の私を抱きしめて『ノエル…お前を立派な令息に育てるぞ』と父様が述べていたという。生まれて直ぐに背負わせてしまったことに申し訳なさを抱いているようだった。しかし、私は受け入れて大丈夫と返した。

『大丈夫です父様、母様』

 父様の治める領地、そこに住む人々は大事な存在に含まれていた。領主は領地に住む人々の生活を重視しなければならない。そう教えられてきたからこそ、反発する選択肢はなかった。

……あと、動きやすい身軽な服装が好きだったのもある。貴族の女性が纏うコルセットやらは、窮屈で苦痛でしかない。男装していれば、緩やかでいられる。

 大好きな乗馬もできるから。


 そうして、性を偽って数年が経ち、ある転機が訪れた。私が12歳の時で、春が近い頃だった。今振り返ると、この出来事が自身の運命を狂わせたのではないだろうか。王都で大掛かりに開催されていた『満開開花祭フェット・ド・フロレゾン』を見た時のこと。

私は、仕事報告に宮廷へ訪れた父様に着いてきていた。父様を待っている間、私は宮廷近くの王都一番の大広場で花を眺めている。

『綺麗…これが東方の花なんだ』

『ええ、美しいですね。私の国でも桜はめでたいものです』

隣に座ってたメイドの琳華リンファは、そう述べた。彼女は、東方の大国出身で幼い頃から私に仕えている。ここでは珍しい艶のある黒髪が特徴で、凛とした印象を周りに与えた。私にとって、頼れる人かつ希少な秘密の共有者だ。

『サクラを眺めて食べるサンドウィッチ美味しいね』

『お褒め頂き恐悦です。具の彩りに悩みましたが、喜ばれて安心しました』

 琳華リンファの作る料理は絶品で、美味しい。特にサンドウィッチといった軽食が一番だ。この花見の時期に食べられることは嬉しい。ジャムのサンドウィッチに舌鼓を打ち、動こうと立つ。もっと、サクラを間近で見たいし。

 その時、深いフードを被った青年が目に入った。

_________

 《補足》

  舞台となっている国は、フランスで、時代イメージは近世です。

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