男装令嬢は仕える無愛想王子から離れたい

香澄すばる

序章 王子と側近の一光景

 『白雪の貴公子』

  老若男女問わず多くの人々は、を見ようと躍起になっていた。引かれていた紐の仕切りを乗り越えようとする者もいる。それぐらい、此処に住む平民に取っては魅力的な人物なのだろう。

 人の集まりが収まってきた頃に、前にいた誰かが声を上げる。

「来たぞ!」

 すると、後ろにいた見物人も釣られるようにざわめいた。声音は歓喜まじりで、興奮が滲み出ている。中にはメロメロになっている者もいた。

「なんて綺麗かしら」

「流石ねえ」

 彼らの目線の向こうには、馬に乗る小柄な“少年”がいた。純銀を溶かしたような短髪に、空色の澄んだ瞳が特徴としてある。年は16前後、体格は華奢と雪みたいに肌が白く、儚い印象を与えた。しかし、頼りなさは微塵も感じさせず、凛々しい風格が“少年”には纏われている。

「ノエル様今日もお美しいですわ」

「まさに『白雪の貴公子』よ!」

 “少年”はノエルというようだ。また、ノエルは特徴的な美貌から『白雪の貴公子』と通り名も持つ。白い肌繋がり、童話『白雪姫ブランシュ・ネージュ』の一つにちなんで付けられたものだった。 と同じ名称なんてと不名誉に近いだろうが。その通り名を巡り、ノエルの隣にいた、白金の髪をした整った青年が話しかける。彼も馬に乗っており、眉間に皺を寄せていた。

「…ノエル今日もその呼び名で巷の女性に呼ばれているのか」

「左様ですクロード殿下。ですが、僕は気に入っていますよ」

「『白雪姫ブランシュ・ネージュ』と同じなんて、戸惑うようなものだろう」

「事実でしょう。白い肌繋がりは僕にとっては名誉です」

「それなら構わないが」

 そう言って、クロード殿下と言われた青年は口を閉じようとする。しかし、ノエルはその行動を遮った。周りから不敬ものだが、そうではないらしい。

「殿下は、僕によく構っていますよね。あまり外で行わない方が良いのではないですか?」

「そうか?俺はお前を部下として信頼して関わっているだけだ」

 整った顔を歪めて、言い放つクロード。王族らしい大胆不敵な言い様にため息をついてしまう。ノエルは、側近として数年前から、クロードに仕えているのだ。

「はあ…それは女避けの口実ではありませんか」

「……俺は女性が苦手なのはよく知っているだろう」

 クロードは、身内以外の女性と関わることが得意ではない。何でも、色々あって大変だったという。また、求めている女性の理想像が高いのも関係している。それは語ると長くなる為、割愛とする。ノエルは、呆れるように零すが、声は震えていた。

「知ってはいますが…このままでは婚姻できませんよ」

「それはそれだ、その内取り組む。お前も手伝ってくれ」

「わかりましたよ」

 クロードの紫水晶アメジストを想起させる瞳に見つめられ、渋々頷くノエル。輝くような紫の双眸は王族の特徴で、人を魅了させるのだ。ノエルは、この瞳及びクロードの瞳に弱かった。

 不意に高鳴った心臓を抑えつつ、ノエルは冷や汗をかく。

(危なかった…何かあったらが知られる所だった)

 自身には、決して他者に知られてはならない秘密があった。それは、自身の立場だけでなく家の何もかもを揺るがす。ここ、ベルラック王国の王子クロードに仕える側近ノエルとしてもだ。

 そのを巡って、思いを馳せた___。





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