第22話 婚約

◇◇◇

「アレクシス殿下。セシリア嬢がいらっしゃっていますよ」


マルクスが告げる。私は今、仕事中なので、書斎に通してくれと頼んだ。すぐに、セシリアが入ってくる。


「アレクシス様。お願いがございます」

「言ってみて」

「私は、コーネリア国に帰らなければなりません…」


少し寂しそうに告げたセシリアの言葉は、私にはすぐに理解できないものだった。

帰る?コーネリアに?…居場所なんてないと、セシリア自身がわかっているはずなのに。だとすればーー。


「…誰かに、唆された?」

「っ………!」


当たり、か。

ちなみに誰かと問うと、心苦しそうに皇妃殿下と他の令嬢方に…と、詳細を話してくれた。


「確かに、帰らなきゃいけなくなるね」

「はい」


引き留めるには、ここに残る必要があると示さなければならない。そして、その方法はーー。

今回の帰国の件これは、私にとって良い機会だ。そう、彼女を手に入れるためのーー。


「…なら、セシリア」

「はい…?」

「私と、婚約してほしい。そして、結婚してほしいんだ」


セシリアは驚いている。まあ、それはそうだよなーーだって、いきなり「求婚」されたんだから。誰でも驚くのは分かる。


「え、ええっと。大変喜ばしいのですが…私が国益をもたらせるかどうか…」


さすがセシリア。私情より国を見ている。

もちろん、私は、その答えを準備しているのだが。


「コーネリア国の国王と王妃に話を持っていく。取引するんだ。コーネリア国には大きな海があるでしょ?」

「…!なるほど。理解いたしました、が…アレクシス様はよろしいのですか」

「うん。むしろ、喜ばしい、けれ、ど…」


な、何を言ってるんだ、私は…。

だけど、彼女を自分のものにしたいという欲望が、日に日に増していっているのは自覚していた。彼女が欲しい。もっと、彼女をーー。


いけない。

私は皇族なのだから。


「では…よろしくお願いします」


セシリアは、ふわ、と微笑んで承諾してくれた。


その後、父に話を持っていった。

もちろん、と二つ返事で承諾された。喜ばしいけど、なんか、事が上手く進みすぎている気が……。


「セシリア。今日からここが君の部屋だ。将来の皇太子妃として」

「……!こんな素晴らしい部屋を、私に…?」

「うん」


大変気に入ってくれたようで、よかった。

ほっと一安心だーー。


「…あら、殿下。ご婚約おめでとうございます」


ああ、そうだ。こいつがいたんだった。

セシリアを巻き込むことになってしまう。


「ありがとうございます、皇妃殿下」


義母はは」とは絶対に呼ばない。私の母は、皇帝の前妻で皇后であるエレナだけだ。あんな女を、親族として扱うことすら嫌悪するというのに…。










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