第18話 視察

「今日は、視察に付き合って欲しいんだ」


殿下…じゃない、アレクシス様からそう言われて、すぐに私たちは城下へ降りて行った。


「暇さえあれば、城下にいるんだ。まあ、大して暇はないんだけどね。ここは皇宮よりも落ち着くんだ」


だからか、と納得した。つまりアレクシス様は、城下視察の最中に、私と会っていたとーーん?それ、もう「視察」ではないのではーー。

細かいことを気にするのはやめよう。


私たちが楽しみ半分視察半分、街を歩き回って、日が落ちてきたときに、アレクシス様は言った。


「セシリア。この街に、アスレリカ唯一の展望台があるんだ」

「展望台、ですか?」

「うん。高いところから、遠くまで見ることができる。いつか、連れて行こうと思ってたんだ」


展望台、なんて初めて聞いたが、いざ登ると高さへの恐怖よりも感動が勝った。

北には山々がずっと遠くまで連なっているのだろう、南には王都に近い海。まさに、絶景。


「すごい、ですね……!」

「でしょ?この国が誇る最先端技術で作られたんだ」


だけど、とアレクシス様は続ける。そして、王都よりも少し離れた東を指差した。

もちろん、私は理解した。


「スラム街、ですね」

「ああ。まだこの国は豊かじゃないし、平和じゃない。私たちがのうのうとここで暮らしている時に、あそこにいる人たちは毎日重労働なんだ」


王都郊外に多くできるスラム街。多いところでそれは、数百万にも上る人たちが、明日食べるものもない暮らしを余儀なくされる。そしてお金を稼ぐためにどんな労働もするといった人たちが重労働をさせられ、そのほとんどが男だ。女は若いうちに、体を売って、もしくは外に売られてお金を稼ぐ。

「奴隷」といったものも、このスラム街から連れていかれる。今は奴隷制度は禁止されているが、それに従わない輩も多いーー。


「…全員は、救えない」


そう、全員は救えない。そんなことは夢のまた夢で、それを成し遂げられた君主は存在しない。


「…この国の問題点は他にもあるでしょう。アレクシス様、どうか目を背けないでくださいましね」

「うん。分かっている」


だけど、全てを諦めたら国は滅びる。

あくまでも「目標」として取り組んでいくのだ。


「なんだか暗い話になったね。そろそろ戻ろうか」

「はい」


日が暮れる。


もしかしたら、私もこの国を守る手助けをしたい、なんてーーそんな、それこそ夢のような欲望を、密かに膨らませていたーー。


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