第10話 新しい職業

「セ、セシリア…。ありがとう」


レイラ様は涙ながらに感謝を述べてきた。私は思わず彼女を抱きしめてしまうと、彼女は私の胸に顔を押し付けて声を必死に抑えながら泣く。

どこからどうみても、それはお互いを思いやる姉妹に見えたことだろうーー。


「三ヶ月、ありがとうございました」

「いいえ、とんでもないわ。こちらこそ娘をありがとう」


お別れの日がやってきた。

最後まで感謝され、ちょっと嬉しくなる。


「では」


次は、またちょっと違った職業も経験してみたいわね。

そんなことを思って私は再び城下に降りる。そうだ、またあの紹介所に行ってみよう。


「成功したんですな」

「はい。ばっちり、家庭教師として務めましたわ」

「じゃあ、次かーー。君の経歴には「子爵家の家庭教師」というのが刻まれるだろう。引く手数多ひくてあまただが、次はどうしたい?」

「そうですね。もっと変わったお仕事がしてみたいです。あ、酒屋の店員。これ、してみたかったんです」

「え…。もっといいところあるよ?」

「お金はたくさんもらったので給料はあまり気にしないんです。それにバリバリ働くの、意外と好きですし」


家で、アメリアが駄々をこねている間、私は父の書類仕事を手伝ったり、使用人の仕事の効率化を図ってきた。だからこそ、貴族令嬢にも関わらず「働く」ことに躊躇いがないのだ。


「…そういうなら。城下でいちばん安全なレストランにしようかね…」

「レ、レストラン…」

「酒屋は、君みたいな若い嬢ちゃんがいると、最悪柄の悪いやつに手を出されるからね。こっちとしてもそれは避けたい。だから、裕福な奴らが来るレストランにしようかな」


…まあ、それなら。

幸い貴族たちの扱い方は嫌というほどしてきたし、私にできないことはないだろう。


「じゃあ、それでお願いします」


「こんにちは!良かった、人手不足だったんだ。しかもこの美貌!美しいホワイトピンクの髪に緑色の瞳だなんてーーどっかの貴族?」


えっと…。答え方が分からず戸惑っていると、オーナーと見られる男子がこほん、と咳払いをした。


「あまり探るでない。人には事情というものがある」


つまり、私は「訳あり」だと、認定されたようですわね?


「君には接客をしてもらう。ーー子爵家の家庭教師、か…なかなか裕福な家の出だろう?期待している」


普通なら、「期待している」なんて言われたら大きなプレッシャーだ。だけど、私は今、すごくやる気に満ち溢れている。


「いらっしゃいませ!」


今日いちばんのお客様は、いかにも高級な服を着た若い男性だ。


さあ、やるわよ!






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