第5話 変貌

「は、うそ」

 自分は知らない内にマラリアスイッチを押していて、横で手を繋いでいた弟はいつの間にか泣き止んでいた。

 ……と思ったら、急にフラフラしだし僕の手を離れ倒れ込んだ。

「赤太! 赤太! しっかりしろ!」

 何度呼びかけても弟は返事をしない。目に涙を垂れさせながら、光なき赤い目を見せて一切動かなかった。

「消世! 大丈夫か!」

 前を見ると黄助さんがいた。

「部長、なんで……」

「帰りの途中だ。それより、お前の弟、大丈夫か……うっ!」

 黄助さんは急に顔を歪ませて、咳き込みながら倒れ込んだ。

 僕は恐る恐る手元を見てみると、またボタンを押していた。

 

 

 

 空は暗闇に包まれていて、さっきからカラスが鳴いている。ほんとにうるっさい。

 僕はあの二人をあのまま放置して学校近くの川沿いにいた。今が何時だか分からないが、一回地べたについてしまってからは体が言うことを聞かない。動かないのだ。

 もう、疲れていた。

「大▫︎夫? ▫︎世くん」

 横を見ると、ギャクキがいた。だが正直、話ができるほど精神状態は安定していなかった。

「は? 大丈夫? かって? そんな訳ないだろう!」

「そ▫︎▫︎よね」

「そもそもお前があんなスイッチを渡さなかったら!……渡さなかったら……」

 ギャクキのせいではない事は自分でも分かっている。忌まわしい物を彼女が渡したとしても、それを使って大事な人を殺したのは自分自身なんだ。

「ねえ、▫︎世く▫︎。初▫︎▫︎会▫︎た時に▫︎▫︎た内▫︎、▫︎えて▫︎る?」

「ん? 何って?」

「だ▫︎ら! 注▫︎▫︎項よ」

 ああ、これからどうすれば。家に帰ってしまえば弟と一緒にいない事がお母さんにバレてしまうし。でも、僕のお腹はもうとっくに限界をむかえていた。

「▫︎いて▫︎る? で、その▫︎意▫︎項を破▫︎と今◻︎でに▫︎▫︎た出▫︎事が無▫︎なっ▫︎事▫︎▫︎る」

 いっそ、この川の中に入って溺れ死んでやろうか。

「▫︎ょっ▫︎消▫︎く▫︎、聞いている?」

「うっさい! お前は黙っとけ!」

 すごい大きく、荒々しい声が自分の喉から出た。今まで、いやこれからも普通なら出さなかったであろう怒号だ。

 気分が少し落ち着いた。

「消世くん、これは全て私の責任だ。おもしろ半分で、朗らかな君にマラリアスイッチを渡したのがいけなかった。だから、さっき私が言った事を……」

 だから、お前が言っていた事は聞こえていなかったって……ん、あ。

「いいこと思いついた!」

 この声もさっきの叫び声と遜色無いぐらいの大きさが出ていた。少女は少し怯えた顔をしていた。

「何を思いついたの……」

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