第4話 赤太


 僕は、あの部活が好きだった。部員はみなフレンドリーだし、部長も大人びていて好きだった。それでもやはり、人は獣だ。

 ……いや、元々あいつらは僕の事を好んでいなかったんだ。

 素で悪いやつ、表面的には良い奴だが裏で悪い心をもっているやつ。僕の嫌いな人の特徴だ。

 それがまさか……な。

 とにかく今は一刻も早く弟のかわいい声を聞きたい。僕の事を唯一慕ってくれるかわいい弟に会いたい。

 弟が通う幼稚園まで無心で走った。放課後、色々トラブルがあったせいでいつものお迎えの時間より遅くはなったが、それでも二十分遅れぐらいだ。学校を出てから、二十分で弟が通っている幼稚園に着いた。

「あの、すいません。イルカ組の宮本赤太はいませんか?」

 園に入って、最初に目についた若い先生に話かけた。

「あ、赤太くんのお兄ちゃん? ちょっと待っててよ。今連れてきますので」

 よし、やっと赤太の笑顔が見れる。嫌な事をなんでも忘れさせてくれるあの笑顔を!。

 と思っていたが、数分後にさっきの先生と一緒に現れた赤太の顔はくしゃくしゃになっていた。

「お兄ちゃん、ひどい! 遅いよ! 最低!」

 自分が、暖かい笑顔を求めていた赤太は今泣いていて、しかも僕に罵詈雑言を浴びせた。

 この時点で僕の精神は完全に折れた、音がした。空を見上げると、オレンジ色に染まっている夕焼けにカラスは数匹カアカアと鳴いている。

 幼稚園を出た後も、弟はしばらく泣いていた。

「ひどいよ! お兄ちゃん!」

 ずっとこのフレーズを繰り返し言っていた。

 しばらくして空は暗くなったが赤太は相変わらずだ。

 僕はついに自我が保てなくなった。そして、体が、腕が勝手にズボンのポケットに伸びた。

 そこからスイッチを取り出しすっと押していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る