第3話 黄助
放課後、掃除を黙々とこなしながら考えていた。今回は兄として、弟の迎えを優先しようと思った。
部活と弟、天秤で測ると釣り合わない。部活は僕の娯楽であって、弟は僕の家族。家族を傷つけ娯楽を優先させる事はあってはならない。
だからこの後部長の所に、休みの連絡を入れるついでに謝りに行こう。そして、その誕生日会を明日に延期してくれないか頼んでみよう。
そうだよ、そこまで悩む事でもなかったんだよ。解はもともと一つだけだった。
教室の掃除を終わらせ、部室へ向かった。部室の前まで来た時、僕はとても緊張していた。誕生日に部活を休むのはやっぱり気が引ける。
いや、そんな気持ちじゃ、弟を悲しませてしまう。何時になっても誰も幼稚園へお迎えが来ない。そんなの、あいつが泣いてしまう。
思い切って、部室へ入った。そして、器具の準備をしていた部長の黄助さんに近づいた。近くまで来ると、黄助さんは僕に気づいて、微笑んだ。
「お、消世じゃないか。今日の劇はすごいぞ。もう少し待てよ」
黄助さんの声は張っている。とても自信作なのだろう。やっぱり言いづらい。
鞄をいつものように、自分用のロッカーに入れた。
それから、黄助さんが劇の準備を一段落終わるまでチラチラ彼を見ながら待っていた。
「あの、黄助さん」
黄助さんが一段落準備が終わったところで話しかけた。
「ん、どした?」
「実は今日、幼稚園にいる弟の迎えにいかないと行けないので部活休みたいんですが」
実際に告げてみるととても怖かった。心臓がバクバクとなっている。黄助さんは少しため息をついて一瞬顔をゆがめたが、また笑顔を作っていた。
「そっか、それなら仕方ないね。誕生日会は明日にすると部員には伝えるから君は弟を迎えに行きな」
「す、すいません。ありがとうございます!」
部活を休んでしまって悔しいはずなのに何故だか安堵している。と言うよりかは、部長に、僕が今日休む事を否定されると思っていたので、部長に誕生日会の延期の許可をもらうことができて嬉しかったのだろう。
僕は急いで下駄箱へ向かった。しかし、靴を履いたところで思い出した。鞄を部室のロッカーに置いてきたままだということを。
走って部室の前まで戻り、扉を開けようとした。
その時だった。
「今日は消世、休みだ」
「え、今日、ですか」
「おう。弟の迎えだ、仕方ない」
「いやいや、全然仕方なくありません。私たち、そこまで彼と仲良くないのに、今日のために頑張って劇の練習したんですよ」
「そうですよ。一週間、消世のために頑張ったのに。あいつ、失礼じゃないですか」
「家の用事だからしょうがないじゃないか。劇は明日やるつもりだ」
「それこそ、誕生日じゃない日にやっても仕方ないじゃないですか」
「消世の事、今回ばかりはまじで許せない」
いつの間にか、僕の手がポケットからマラリアスイッチを取り出していた。でも、その状態からボタンを押すまではできなかった。
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