第2話 青井

さっきまでの出来事がいつまでも忘れられない。確かに、あの瞬間だけ現実世界にいる心地はしなかった。いや、さっきのは夢だったのかもしれない……。

 あの後、少女からもらった歪な形をしたスイッチをぼーと見ながら、教室に入って行った。途端にため息が自然と出ていた。

 いつものように、青井たち不良集団が自分の席の周りを囲んでいた。

「ねえ、消世くんー。今日の掃除当番変わってよ」

「え、でも今日は……」

 その瞬間、拳が僕の顔に飛んできた。今までに何十回と受けてきた拳でもまだこの痛みには慣れない。

「俺さ、今日彼女とデートに行く約束あるからさー」

「はい」

「だから、しくよろ」

 青井がそう言い、不良集団は笑いながら教室を去って行った。

「消世君」

 びっくりした。いつの間にか真横にギャクキがいた。

「スイッチ、押しちゃいなよ」

 

 数分前。

 ギャクキの前から立ち去ろうとしたら、僕の体はなぜか動けなくなった。その時、彼女から歪な形のスイッチを渡された。

「これはね、マラリアスイッチって言うの!」

 少女はとてもにっこりしながら、そう説明していたが、もう名前だけでも危なそうな感じが否めない。マラリア……病気の一種だ。

「人を思い浮かべながらこのスイッチを押すと、その人を殺す事ができるの」

 やっぱり……。

「ねえ、便利でしょ。これで気に入らない人をやっちゃえばいいんだよ。消世君、そういう人、いっぱいいるでしょ」

「いやいや、殺人するつもりはない。そんなのいらない」

 這いつくばってでも進み、逃げたかったが、動くたびに命の危険が近づいている気がして、数センチ動いた後、これ以上動くことを諦めた。

「まあ、そっか」

 ギャクキは赤色の髪をいじりながら、ふぅと息をはいた。笑っている様にも見えたし、少し悲しそうにも見えた。

「あ、一つだけ注意事項。そのマラリアスイッチで私やそのスイッチを消しちゃわないでね。スイッチも人判定だから」

「そもそも使わないよ」

 

 ふと青井たちを見てみる。

 ……でも、別にこんな事、日常茶飯事だし、どんな理由であれ人を殺す事は良くない。そう、僕は全然ヘイキだから……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る