マラリアスイッチ
春本 快楓
第1話 ギャクキとの出会い
「あ、消世。ちょっと」
空は雲一つない青空だ。ただ、朝のニュースの天気予報によると、今日の夕方ぐらいから雨が降り出すらしい。
空って案外勝手だよな。
今食べている食パンを噛みちぎって喉の奥に落とし込んだ後、笑顔を作り、お母さんの方へ振り向いた。
「どうしたの? お母さん今日も忙しいの?」
「いや、定時であがれるとは思うんだけど、あなた今日誕生日でしょ。今年は奮発して隣町の高級菓子店のケーキにしようと思っているのよ。だけど、幼稚園まで赤太を迎えに行ってからとなると、時間けっこうかかっちゃうんだよね。だから……」
「わかってる。今日も僕が迎えに行けばいいんでしょ」
「ごめんなさいね。消世、部活行きたいだろうけど」
「全然、ダイジョブ……」
お母さんって勝手だよな。
今日は四月四日。僕の誕生日だ。僕が所属している演劇部では、部員の誕生日に特別ショーが行われ、その後にお菓子とジュースで誕生日会が行われる。
その特別ショーは、部員全員で一週間かけてじっくりと練習され、毎回感動物で、僕はずっとこの日を楽しみにしていた。 それなのに……。
とにかく、この特別ショーは僕以外の部員が必死に仕上げている。今日部活を休むという行為は彼らの頑張りを無下にすることに等しい。
だからと言って、かわいい弟を迎えにいかない事も兄としては心苦しい。
なんとかうまい具合にできないかと頭を悩ませながら学校の廊下を歩いていると、外が騒々しくなってきた。
!
かなりうるさい。
近くにあった窓を開けて上空を覗くと、カラスの群れがカアカアと鳴いていた。
その直後だった。僕の目の前に一人の赤髪の少女が立っていた。その人は制服を着ていない。それどころか、金色のシャツに赤色のジャケットという派手な格好をしていた。
この学校の生徒では絶対にない。それどころか、本当にこいつは人間か?
気がつくと、廊下の、周りにいた人が全員いなくなっていた。
僕の肌が急速に鳥肌に変わっているのを感じた。
「……あなたは? 学校関係者じゃないですよね」
「なんか疲れていそうだね」
その少女はそう言い、にっと笑った。
「私は、ギャクキ」
ギャクキ……どこかで聞いた事がある名前だ。神話の類の名前だった気がするが。本当に僕が現実世界にいるのか不安になってきた。
「消世君、私と少し遊ばない?」
「なんで名前知っているの?」
こいつは明らかにおかしい。関わっちゃいけない存在な気がする。
「警戒しないでよー。私は消世君の味方だよ」
「あのすいません、時間がないんで……」
少女の前からいち早く立ち去ろうとした。
その時、急に体が熱くなってきた。しかも、ものすごい倦怠感も襲ってきて、足を一歩進める事もできない。それどころか、立つこともできなくなった。
「私の能力」
「えっ」
「まだ話は終わってないっていうこと」
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