第4話 安寧の地 スーパー

スーパーに入ると、涼しげな風が吹く。店内は冷房がガンガンにかかっていて、寒いくらいだ。

「カレーぇっカレーえっ」

誰にも聞こえないくらいのささやき声で、メロディーを口ずさむ。

作詞作曲もろとも蛍によるものだ。

(やっぱりスーパーは安寧の地だなぁ。あっ福神漬け安くなってる)

「ねぇ。」

唐突な声に後ろを振り向く。

「学年ビリの夜月蛍じゃない。なんでこんなとこにいんのよ」

(なんでと言われても、スーパーなんて誰でも行くもんでしょ)

心の中でも突っ込むも、実際の蛍は回れ右をしてそのまま福神漬けをカゴの中に突っ込んでいた。

「ねぇ、あんたごときが私を無視できると思ってんの?」

(この人誰だっけ)

そんなことを考えていると後ろから殺気を感じた。瞬時にナイフを出す。袖に仕込んでいるため、今すぐにでも後ろの女を殺す準備は出来ている。

「あんたなんて、すぐに殺せ・・」

その後すぐに銃声が響いた。その音は後ろからではなく、右横側から聞こえた。

「弱い者いじめなんて、つまらないものを俺に見せるな。不愉快だ。」

改めて後ろを見ると、声をかけてきた女は地べたに座り込み失禁している。女から離れた位置には銃が落ちていた。どうやら女を撃ったのではなく、女が出したのであろう銃を撃ったようだ。

「あっ・・は、一さん」

一と呼ばれた男はゆっくりと女の方に近づき、かがむ。

「このスーパーは暗殺禁止だ。それはお前でも分かってるだろう?もし、ここ以外で同じようなことをしていたら、今度は無いと思え」

「は、はい・・・」

女はゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらも出て行った。

(掃除くらいしていけばいいのに)

そんなことを思ったが、すぐに従業員の人が出てきて掃除を始めた。その様子は淡々としており、恐れや恐怖はなかった。

その理由には、彼らも立派な暗殺者であり、このスーパーが学園が所有している敷地内にあるため、一般人には立ち入れない場所ということがあった。ここ以外にも敷地内には様々な建物があるが、大抵の建物は暗殺禁止となっている。

中にはルールを破る者もいるが、運が良ければ掃除だけで済む。運が悪ければ従業員や利用客に殺される。

(学園でこの人と会ったら、あの人は終わりそうだなぁ)

「あの、」

「お前も目障りだ。というかお前のような者が同じ空気を吸っているというだけで虫唾がはしる。さっさとここから出てけ」

(そんな横暴な。私が真面目に、銃隠すならスネのとこじゃない方が良いですよってアドバイスしようとしたのに。)

何も言わず背を向ける。そんなことを言う相手に教えることはないと判断したためだ。

(あの人が天才だっていう言う一かぁ。・・・・・・)

「30分かなぁ」

蛍はまた呟いた。

「おい、待て。何が30分なんだ。」

その声に振り返る。

「貴方を殺すまでにかかる時間」

一言そう告げると、相手は呆気にとられたように固まった。

その間に蛍は移動する。なにやら殺気を感じたが、殺されるまではいかないと判断し、お会計を済ませる。


外に出ると今度は暑い空気を感じる。

ピロンっ

スマホが振動しメッセージを受信したことを確認する。

『 坂本 優屋 同業者 彼の今回のターゲットは言えませんが、国に関わるものですので、早急な対処をお願いします。いつも通り授業は休んでいただいてかまいません。お金は完了後いつもの口座に入金致します。』

学園長からのメッセージだ。

「坂本、優屋」

呟くとまた後ろから殺気を感じ、振り返る。

「お前、坂本優屋って有名な暗殺者だろう。それにそのメール、仕事だろう?お前みたいな落ちこぼれがやるんじゃなく、俺がやったほうが確実だ。その仕事よこせ。」

(そんな横暴な)

「何分?」

「あ?」

「何分でやれる?」

「分って。そんなに早く殺しが出来るわけないだろ」

「そうなの?まぁ、どっちにしてもこの仕事は渡せない。そんなに有名なら、この人が私の最高の死に場所かもしれないから。」

「は・・?」

そのまま家に向かう。とするが、カチャリという銃を抜く音がする。

袖に隠したナイフを後方に勢いよく投げる。

「なっ」

そのまま顔だけ後ろを向く。

「スネに隠すと銃を抜くのに時間がかかるし、取る瞬間相手に頭を向けることになります。隙だらけなので別なとこに隠した方が良いですよ。」

今度こそ家に向かう。殺気はもう感じなかった。

「坂本優屋か、今度こそ、私を殺してくれますように」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る