第1話 ある学校

「それでは今月の成績を発表する。まず第一位 零。第二位 一」

全校生徒が集まった体育館で発表される成績は、自分以外はどの成績は把握出来ない。そのため、こうして呼ばれている上位者も本人にしか自分の順位が分からないのだ。

その理由がこの学校自体にあった。学校の名前は無し。住所も無し。教える科目は主に暗殺に関するもの。政府が手に負えないと判断した暴力団、指名手配犯を秘密裏に暗殺することを目的として建てられた学校である。そのため所属する生徒も教師もれっきとした暗殺者だ。そのせいか、校内で死人がでることもちらほらある。このような理由から生徒も教師も本名、いや偽名の他にもう一つの名前が存在する。それが前述した零や一などの数字だ。

「零って未だに誰だか判明してないんでしょ?」

後ろに並んでいる女子生徒が、全校集会だというのに会話を始める。

「うん。そうみたい。ハッカー部とかも学校側のパソコンにハッキングしようとしてるんだけど、そもそも学校の情報自体が国家機密だからアクセスできる回数に限度があるみたい。その中でも零の情報はより厳重らしいから、もっと大変よね。」

「零って誰なんだろうね。この学校の中にいることは確かだけど、先生かもしれないし・・・」

「噂では学園長らしいよ。」

「えぇ、そうなの。まぁそれだったら納得かも。てか、それよりも一さん見た?」

「見た見た。今日もかっこいいよねぇ。一個上にすごい人がいるって、なんかさ、すごいよね?」

「語彙力・・まぁ気持ちは分かるよ。上位者の中で自分でばらしたのあの人が初めてだよね。」

「なんでも、天才すぎてものすごく暇らしいよ。だから敢えて正体明かして自分を狙う人を増やして暇潰ししてるんだって」

「コワーイ。でも、あの人間離れした美貌になら殺されてみたいかも」

「しっ。あんた本当に殺されるよ。一さんって確かに綺麗だけどさ、ものすごく冷酷じゃん!まさに血も涙もないおと・・」

そこまで話していた女子生徒は二発の銃弾の音とともに、後方へと倒れる。

その頭は、まるでザクロがはじけたように破片が散った。

しかし誰も悲鳴を上げることはない。まるで当たり前と言うかのように、静かに前を向いている。

うるさい・・・・

「私語は慎め」

何か面白いこと起きないかなぁ。

生活指導の先生の言葉にも耳を貸さず、少女 月夜蛍はボーッとしていた。

「学園長のお言葉」

その言葉とともに、学園長がステージへ登壇する。学園長は菩薩のような笑みを浮かべて笑っている。

食えないなぁ。あの人がこの学園の中で二番目に強いだなんて誰が分かるんだろ。

「えぇ、諸君。簡潔に良いお知らせと悪いお知らせがあります。まずは良いお知らせから。最近異常犯罪が減ってきました。そのため、皆さんに暗殺していただきたい人数がぐっと減りました。次に悪いお知らせ、銃の没収です。」

「えぇぇぇぇぇぇ」

この言葉に、普段は冷静沈着な生徒が騒ぎ始めた。それだけではない。教師陣までもがざわめいている。

「経緯費削減です。今後はナイフまたは敵からでも銃を奪ってご利用ください。それでも個人で欲しい方は、申請を。ただし、かなりの費用がかかると考えてください。」

その言葉を残し、学園長はまたその顔に菩薩のような笑みを浮かべながら退場する。

しかし、生徒や教師の心には学園長に対する不信感が強く残った。

あっ、今日のご飯カレーにしよ。

ただ一人の生徒を除いては。


教室へ帰り、早速銃回収ボックスに銃を投げ込むように入れる。

「さっすが、成績ビリ子ちゃんは気にしなくていいもんね。」

「私なんか銃無くなったら大変だよぉ。拷問にも使ってたのに」

クラスメイトの言葉にはほとんど耳を貸さず、蛍は空を見ていた。

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