【掌編】痴話喧嘩【700文字以内】

音雪香林

第1話 痴話喧嘩

 彼氏とケンカした。

 クリスマス直前なのに最悪。


 でも誰も責められない。

 だって私が悪いから。


 彼氏はサッカー部の花形のフォワードで、すっごく人気がある。


 だからいつも誰かに取られはしないかとハラハラしてて、ケンカしたのも彼氏がマネージャーの女の子にスポドリを渡されて「ありがとう」って言ったってそれだけのこと。


 浮気なんかじゃない。

 わかってる。


 お礼を言うのだって人として当たり前のことだ。

 けれど、わかっているけど……。


 あんな輝くような笑顔で『ありがとう』なんて言ってほしくなかった。

 誰だって恋してしまう。


 ライバルがこれ以上増えたらどうしたらいいかわからない。



 *****



 クリスマス直前に彼女とケンカとか、疫病神でもついてるのか俺は。

 でも、なんであんなに怒ってたんだろう?


 もしかしてマネージャーと話してたから?

 いや、いくらマネージャーが女の子だからってそんなわけないよな。


 女の子と話すたびに浮気だなんだって責められても困るし、そんなの彼女だってわかってるはずだ。


 う~ん、と自室で腕組して唸っていると、通知音がした。

 お、彼女からメッセージだ。

 なになに……。


『私が一番あなたのこと好きなんだからね!』


 ……怒ってたはずなのに、なんて熱烈な言葉。


 いったい彼女の心がなにがどうしてこういうメッセージを送信するに至ったのかはわからないけれど……。


『俺も君のことが一番好きだよ』


 面と向かって伝えるには羞恥心が勝るけれどメッセージでなら伝えられる。

 甘いクリスマスが過ごせますように。




 おわり

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