第十四話 新たなフラグ
いまだかつてないほど爛れた土日を過ごしてしまった。
この二日間、おそらく俺は人として扱われていなかったと思う。
土曜日の午前中はほとんど寝て過ごした。
前日から続く悪魔の宴が朝方近くまで続いたからだ。
そして、次に目覚めたとき、何故か夜には二匹だった悪魔の数が五匹に増えていた。
先にいた悪魔とあとからきた悪魔はその邂逅に幾ばくかの衝撃を受けていたが、すぐに意気投合すると、再び俺という贄を喰らいはじめた。
その時点で予想はしていたが、俺には一瞬たりとも安寧のときは訪れなかった。
悪魔たちは土曜の夜をまたいで日曜の夕刻になるまで飽きることなく俺を喰らい続けた。
彼奴らがスマブラで勝ち抜けした者から喰らう権利を得るという遊びに興じはじめたときには、俺にはもう人としての尊厳は残されていないのだと思い知らされたものだ。
俺はこの土日で徹底的に蹂躙され尽くした。
あるいは、これは断罪なのかもしれない。
世の中には超えちゃいけないラインというものがあるが、これはそのラインを何本も超えてしまった俺に科せられた罰なのだ。
「あんた、ほんとに絶倫よね」
皆が帰ったあと、姉貴に無理やりシャワーを浴びさせられているときにそんなことを言われた気もするが、もうよく覚えていない。
※
明けて月曜日である。
実は金曜日の放課後、姫宮とはスマホのアドレスを交換させられていた。
この二日間で、もうすでにビビるくらいスマホにメッセージが届いている。
『キス、きもちよかったね❤︎』
『次、いつ2人っきりであえる?』
『あれからセトのことばっかり考えちゃう……❤︎』
こんなのはもちろん一例にすぎない。
いちおう返信できるときはしているが、既読スルーしたほうがいいのだろうか……。
ちらりと姫宮の席のほうを見やると、すぐに俺の視線に気づいて手を振ってきた。
くそ、可愛い……優那、浮気がちな男で本当にスマン。
いや、そもそも俺は今も優那の恋人という扱いでいいんだよな?
あまりに共有財産扱いされすぎて、最近の自分の立ち位置がいまいち分からぬ……。
「また別の女の匂いがするなぁ……」
斜め後ろの席から、深雪の視線がブスブスと背中を刺しているような気がした。
※
「セトくん」
昼休み、屋上に行こうとしているところを服部に呼びとめられた。
最近はなかなか真っ直ぐに屋上に向かうことができんな。
「どうかしたか?」
俺が訊くと、服部は少し照れたように頬を掻きながら上目遣いに俺の顔を見上げてくる。
「その、あなたにもちゃんとお礼を言わなきゃと思って。ありがとう、本当になんとかしてくれたのね」
そう言って、はにかむように笑う。可愛いじゃねえか……。
まあ、いいってことよ。
もし恩に感じてくれるなら、代わりに優那が高慢ちきなことを言い出しても笑って聞き流してくれたら嬉しい。
「……なんで綾小路さんの名前が出てくるの?」
やや訝しむように、服部が訊いてくる。
いや、もともと俺の目的は優那の敵になりそうな人間を減らすことだからな。
今回の柳川の件はちょっと想定外だったが、それで服部が優那に対する鉾を収めてくれるなら、こちらとしても好都合だ。
「べ、別にわたしは綾小路さんをどうこうしようなんて考えてないわよ」
まあ、それはそうだろうが、不穏な火種は早めに消しておくに越したことはないんでな。
「……あなた、本当に綾小路さんの下僕なの?」
うわ、またそれか。クラス内に広まる謎の下僕説——いやまあ、確かに、今の言動だけ切り出せばそういう印象を抱かれても仕方なくはあるが……。
「二人でなに話してんの?」
——と、俺たちの間に姫宮が割り込んできた。
その手にはお弁当が入っていそうな可愛らしいデザインのポーチを携えている。
「ねえ、よかったら一緒におベントー食べない?」
そう言ってニコッと微笑みかけてくる。
くそ、相変わらず可愛いぜ。ギャルはいかんのよ、ギャルは。
「でも、セトくんっていつも屋上で食べてるんでしょ?」
「そうなの?」
服部が言って、姫宮がキョトンとしながら首を傾げている。
というか、なんで服部はそんなこと知ってるんだ。
「え、いや、まあ、なんとなくよ……」
服部は慌てたようにしどろもどろになっている。
まあ、別に隠しているわけではないから、何処かのタイミングで屋上への階段を出入りしているところを見られたのかもしれない。
「じゃあ、マユも屋上行ってもいい?」
姫宮が上目遣いに見上げながら聞いてくる。
くっ、困り眉でこちらを窺うその表情があまりに可愛すぎる……。
なんてあざとい女に目をつけられてしまったんだ!
こんなの、頭の中ではダメだと分かってても断れないよぉ!
「やった! ねぇ、カスミも一緒に行こうよ!」
「えっ……わ、わたしも?」
おいおい、マジかよ。
これはいよいよ大変なことになってきたぞ……。
すでに優那たち三人は屋上に行ってしまっているし、連れて行けば遭遇は避けられない。
「ほら、行こ?」
しかし、俺の逡巡など気付いた様子もなく、姫宮は腕の腕を取って歩き出してしまう。
ああもう、ここまできたらもうどうなっても知らんぞ、俺は……。
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