第二話 生徒会選挙
「帰る前にプリント配るわよー」
終業のホームルームがはじまるなり、
穂村先生は我らが1-6の担任であり、どう見ても中学生くらいにしか見えない見た目とそれに反した堂々たるたたずまい、そして、意外にも色っぽい声と爛れすぎた性癖という属性を盛りに盛り過ぎている女性教師である。
明るくなりすぎない程度の茶髪をうなじのあたりで一つ括りにし、気温が高くなってきた最近はノースリーブのブラウスに膝丈のタイトスカートという恰好をよくしている。
「生徒会会長選挙のお知らせだってさ」
斜め後ろの席から深雪がそう声をかけてきた。
俺もプリントの内容をざっと確認してみたが、どうやら本日の放課後から金曜日までが立候補者の募集期間となっているらしい。
来週の全体朝礼にて立候補者による候補者演説、その後、週末まで投票受付が行われ、週明けの月曜日に選挙管理委員による開票作業、火曜の全体朝礼で当選発表となるそうだ。
さすがに実際の選挙の流れとは随分と違うようだが、まあ、生徒会の会長選挙なんてそんなものだろう。
これがハイレベルな進学校などであれば、内申点を狙う学生たちによる血なまぐさい政争が勃発することもあるのかもしれないが――。
「セッちゃんは生徒会とか興味ある?」
深雪が訊いてくる。
うーむ、将来的なことを考えると、組織運営のノウハウというものは持っておいたほうが良いような気もするが、別に一年生からやる必要は感じないかな……。
「ユナちゃんとか、ザ・生徒会長って感じだよね。アリサちゃんが副会長でさ」
まあ、確かに。俺はどちらかというと実働隊だから、生徒会でいうなら執行役員的なポジションが最も適任だろうか。
「こんな学校の生徒会長になんて、毛ほども興味はないわ」
俺たちの話を聞いていたらしい優那が反応する。
人前での彼女はやたら態度が辛辣なだけで、それ以外のところは実は普段とそこまで変わらない。
つまり、ごく普通に俺たちの会話に入ってきた上で悪辣なことを言ってくるので、事情を知らない外野からするとただただ高飛車なお嬢さまに見えてしまうという問題があった。
「あなた方がどうしてもわたしにこの学校の未来を託したいというなら、断腸の思いでやってあげなくもないけれど」
こんな感じである。ついつい床に額を擦りつけてしまいたくなる。
「……冗談じゃないわよ!」
バンッ! ――と、不意に何者かが机を強く叩いた。
思わず音のしたほうを見やると、服部香澄がものすごい形相で優那を睨みつけている。
またこの女か。どうにも優那に対して不穏な態度が目立つな。
まあ、優那のほうにも多少の問題はあるだろうが、かといって直接絡んだわけでもないのにここまで因縁をつけられる
服部香澄はそのまま机の横にかけた鞄を担ぐと、挨拶も待たずにズカズカと教室を出て行ってしまった。
穂村先生も含めて、周りは呆気にとられたようにその後姿を見送っている。
――面倒な予感がするな。
また
※
学内のことで何か知りたいことがあったとき、俺には頼れる情報源があった。
ただ、その情報源となる人物はちょっと特殊な性癖を持っていて、扱いには細心の注意が必要だ。
放課後、俺はひとまずその人物と接触するため、彼女が一人になる瞬間を待ちながらできるだけ不審に見えないようにそのあとを追った。
彼女はときにスマホをいじったりしながら学校内を奇妙なルートで歩き回り、最終的には保健室の中に入っていった。
少なくとも本人にはバレてるな、これ……。
俺はいちおう周りに人の目がないかだけ確認してから、恐る恐る保健室の中に入った。
「待っていたわよ!」
力強い声で言いながら保健室の中で仁王立ちしていたのは、我らが穂村先生である。
今回はブラウスの前こそはだけていなかったが、何故かスカートを脱いでいた。
いわゆる裸ワイシャツといった恰好である。
マジでこの教師には羞恥心というものがないのだろうか。
幸いにもブラウスの丈がそこそこ長いので、ノースリーブということもあってワンピースに見えなくもないが……。
「あなたにいつでも見られてもいいように、先生、今日もしっかり勝負下着よ!」
ちらりとブラウスの裾がめくられる。
穂村先生のはいているショーツはやたらセクシーなレースのもので、しかも色が定番の白や黒ではなく薄紫というのがまた幼い見た目にそぐわない妖艶さを醸しだしている。
というか、太腿は意外とむっちりしてるんだな……。
「さあ、今日も何か訊きたいことがあるんでしょう? 先生のセクシーさに耐えながら、何処まで冷静さをたもっていられるかしら?」
相変わらずわけの分からないことを言っている。
というか、なんでいちいちそんな我慢大会みたいなことをせにゃならんのだ。
「別に我慢はしなくてもいいのよ?」
確かに。言われてみれば我慢に関しては完全に俺側の都合だった。
だが、だからこそ俺は耐えなければならないのだ!
健全な学生生活のためにも、俺は負けん!
「相変わらず強情ねぇ……まあいいわ。それで、今日は何を知りたいの?」
先生がソファの上でグラビアポーズのような煽情的なポーズを取りながら訊いてくる。
コイツ、本当に教師か……?
どんなポーズが自分の魅力を最大限に発揮できるか熟知しているとしか思えない。
絶対SNSにあたしこ系の写真とか上げてるタイプだろ……。
「失礼ね。そこまで自分を安売りしたりしないわよ」
今、俺の目の前で繰り広げられている光景以上の安売りがあるのか?
まあいい。今日は服部香澄について訊きたくて来たんです。
「服部さん? そういえば、さっきはなんだか
ちょっと優那に対する態度が気になりまして。
「テストで負けたのが悔しかったんじゃない?」
まあ、その可能性は大いにあるが……。
しかし、そんな単純な理由であそこまで
「人が怒る理由なんて、その人にしか分からないわよ」
それは確かにそのとおりだ。
俺は別にテストの順位に価値を見出したりしないが、そこに生きがいを見出す者がいたとして、それを否定する権利は誰にもない。
とはいえ、終業時に服部が怒りを
「単純に綾小路さんのことが気に食わないんじゃない?」
そんな身も蓋もないことを言われたらどうしようもないが、冷静に考えるとその可能性も否定しきれないのが困ったところだ。
「そういえば、服部さんって確か推薦で入ってきたのよねぇ」
ふと何かを思い出すように、穂村先生が人差し指を顎に当てながら天井を仰ぐ。
「綾小路さんなんて明らかにうちには場違いな子だけど、服部さんもわりと場違いな感じではあるのよね。綾小路さんがいなかったらダントツでトップだったんじゃない?」
なるほど……となると、服部は優那と同様に何か特別な目的があってこの学校に入学した可能性もあるわけか。
あるいは、それこそがこの学校でトップの成績を取ることなのかもしれない。
そうでなくとも、何かしら服部が目的を達成する上で優那の存在が邪魔になっている可能性は高いと考えられそうだ。
「服部がここに入学した事情って知ってますか?」
グラビアポーズに飽きたのか、退屈そうにあくびをする穂村先生に俺が訊く。
ふむ……あくびをしながら両腕を上げたときに見えた脇のラインが最高にエロかったことについては、俺の心の内にしまっておこう。
「いくら担任だからって、そんなことまで知らないわよ。中学校の同級生にでも聞いてみたら?」
まあ、それはそうか。
でも、服部の出身校なんて知らないしな……。
「
うえ、マジか。まさかここでまた柳川の名前が出てくるとは……。
とはいえ、本人ではないだけまだマシか。
取り巻きが二人いたのは覚えているが、姫宮がどちらかまでは分からないな。
「派手めのパーマの子よ。最近はあんまり柳川さんとは絡まなくなったみたいだけど」
ほう、それならまだ話しかけやすくはあるな。
とりあえず、見かけたら声をかけてみるとするか……。
「さあ、そろそろ話は終わりよ! 今回も有益な情報を提供したことだし、お礼にエッチなことをしなさい!」
そう言って、穂村先生がソファの上で股を広げだした。
もう少し
そこまでされると逆にエロくねえ。
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